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平安京エイリアンズ
平安京は平安とは言い難かった。常に暗雲に覆われているようだった。
紀子は手近な狩衣を纏い、緑を抱いた真琴に話しかけた。
「真琴さんは、どうしてここに?」
真琴は応えた。不動の固い意志が胸にあった。
「降魔さんは行ってしまいました。残された私は稲荷山に赴き、トキさんと話し合いました。トキさんの占術に従い、私は打伏山深部の神殿に赴きました。厳島神社を超える霊気の奔流を辿り、緑くんは神体に手を伸ばしました。強い霊気に覆われ、私は陰態の中にいました。京の都をさまよい歩いていると、突如現れたのは安倍晴明氏でした。紀子さん、私は降魔さんが心配で心配で堪りません。いつものようにダラダラしながら私のお尻を撫でて欲しい。あんなに真面目な降魔さんは降魔さんじゃありません。ーー心から、愛してーーいます。ーー降魔さん」
ポロポロと涙を流す真琴を見て、紀子は嫌な予感がした。
漠然とした不安が強くあった。
勘解由小路は出鱈目ではあるが、我々の中心でもあった。
彼が目指すゴールが全く見えない。だが。
「禍女の皇。あの子を殺す気なのね?」
紀子は結論を口にしていた。真琴は涙を流して無言で頷いた。
「だったら、あの子供の背後には、俺の弟がいる」
静也が言い、反応したのは板間に座っていた晴明だった。
「左様。昨今妙な雷雲が列島を覆いつつあります。禍女の皇の霊気に当てられた人間の中から、異能の力を持った者達が生まれています。勘解由小路殿は、それを片付ける為に一人向かわれたのでしょうな。恐らく、禍女の皇の危険性を唯一知っている様子。誰よりも先に立ち、誰よりも早く禍女の皇の危険性を知っているのでしょう」
「だったら、先生のところに行こう。俺達がここにいるのは、その為なんだろう?先生が危険だったら、当たり前に側にいるべきだ」
「弟君に勝てるのですか?そこの姫君とて、彼等に敵し得るとお考えですか?」
「勝てる勝てないじゃない。私は百鬼姫だもの。彼は私が隣に立つのを許した。でも彼は命を預けられないと言った。彼の足手まといにはなりたくないし、若い娘じゃ終われない。だったら強くなればいいんでしょう?晴明さん、どうすればいいの?」
「そうですね。では」
晴明が手を叩くと、床に穴が開いて静也が落ちていった。
「静也!」
「彼は、列島を覆う雷雲を祓いに行きました。百鬼姫よ。貴女を導かせていただく。出来なければ死ぬだけです。放っておけばどのみち貴女は死ぬ。そういう位置にいらっしゃるようです」
いよいよ、その時がきたことを感じていた。
命がけの試練。紀子は、百鬼丸を勧請した。
眼前に立つのは、魔都に君臨する魔王安倍晴明。無防備に立つ姿は逆に脅威として写っていた。
紀子は、身に纏う霊気をどこまでも高めていった。
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