勘解由小路降魔さんと十二人の僕達

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勘解由小路降魔さんと十二人の僕達

あー。ここか? 勘解由小路は、新たに作られようとしていた日本武道館に来ていた。 老朽化で一から作り直される武道館は、まだ足場が組まれていた。 「不妊治療の末に、県はゾーイの馬鹿に受精卵を埋め込まれた。着床したのはここだ。あのガキの存在と非存在の狭間となったのがここだ。ここで業者と打ち合わせしてたのか。誰一人として、ここにこんなものが建ってるとは気づかなかったんだな。薄皮の向こうの異界にあるのがこれだ。さて、全員いるな?」 巨大な城に背を向けて勘解由小路言った。 武道館の敷地には、全く有り得ない存在が屹立していたのだった。ここは新日本武道館ではなく、どこまでも果てのない仮定的存在の城だった。 勘解由小路の前には、十二人の僕が一堂に会していた。 「ああ。ご苦労さん。早速だが、全員面を外せ。シャックス、ベールゼブブ、アラストル、ビフロンス」 三田村さんが、戦部さんが、三田倉さんが、御手洗さんが面を外した。 「セーレ、アミ、ヴィネ、カークリノーラス、ベヒーモス、アンドラス、ベルフェゴール、それとお前も出てこい。ブエル」 轟さん、三鷹さん、護田さん、狐池さん、猿渡さん、服部さん、袋田さん、そして石山さんが面を外して傅いた。 「お前達ときっちり顔を合わせるのは、地獄でお前等を見かけた時以来だな。まさかゲーテのファウストの如く地獄観光がリクルートとは思わなかったろう。ずっとそばにいたのはお前だったなシャックス。改めて礼を言おう」 「そのような物言いは貴方には似つかわしくありませぬ。傲岸不遜が我等の盟主の証でございます」 「ああそうだな。お前達あれを見ろ。俺の不出来な娘が拵えた城だ。懐かしい匂いがするだろう。あの城は地獄と直結してる。俺は向こうに行ったがあいつはわざわざ呼び寄せた。俺が行ったのは、現世への悪影響を最小限にしようとしたからだが、あいつはお構いなしだ。今も地獄の空気は力無い一般市民に影響を与えている。どうするかな?」 ベールゼブブ以下、何人もの地獄の爵が、万魔を率いるいと高きから堕天した魔王達が次々に言った。 「ならば決まっていよう。一言だ。それで一切合切片がつく。あんな下らぬ者共に思い知らせよう。誰が勝者であるか」 「このアンドラス、闇の忍びの仮面をつけておりました。かつて浴した不覚、贖うは今でございます。命じてください。我が主人(あるじ)よ。アポカリプスは今来たれり」 「その通りだ。娘のしでかしたことを父親が贖う。行け!全て平らげろ!奴等の死体をエルサレムの如くうず高く積み上げろ!逆らう者は容赦するな!一切合切消し去れ!我が僕達よ!」 魔上皇の号令に合わせて、ソロモンの天魔達は死と破壊の運び手となって突き進んでいった。 不意に、勘解由小路に杖が差し出された。シャックスだった。杖を受け取った勘解由小路は満足げに杖先で前方を示した。 「まずはあのけったくそ悪い城だ。真っ平らにしてやれ」 壮絶な破壊の中、勘解由小路は城に向かっていった。
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