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京の絶望
暗く広大な空間に静也は着地した。
ボフッと背中にムクの重みを感じた。
「ああムク。ここは何だ?紀子は?紀子の名前に反応するなよ。尻尾がブンブン動いるぞ」
ムクのヘッヘッヘっと言う声に紛れて、突如現れた存在に、静也は強く警戒した。
「父さん。どうして?」
静也の父親は、虚ろな目に激しい攻撃性を見せていた。あの時と同じ格好。静也を殺そうとした時の。
「ああ。ああ。あああああああ!翔平!しょおおおおおおへええええええええ!」
「今はもう静也だよ俺、僕は」
「てめえのケツの穴みてえな口閉ざして黙って殴られてろよ!てめえみてえなゴミはよおおおおおおおお!おらああああ!」
静也の父親は大きな扇子を持っていて、それを薙ぎ払った。
巨大な風の塊が、静也を言葉通りのゴミのように吹き散らした。
吹き飛ばされ、地面を転がりながら、静也は、自分が無力な虐待を受けるだけの、無価値な子供であることを思い知らされていた。
一方紀子は、五火神焔扇が全く効いていない状況に愕然としていた。
「無意味ですな姫君。五行を知ればこれしきの火気など。つまるところ陰陽五行は矛にあらず。全てから身を守り、万難を排する為にあるのですよ」
「八瀬童子!行くわよ!」
「無駄ですよ。カン」
晴明はそう言った。八瀬童子の攻撃は完全に空を切っていた。
「いかに強力な式神とて所詮は霊体です。実体化を少し、ほんの少し阻害し、私のいる層とずらしただけでかくの如く無力になり申します」
何をしても届かない。全く通じない存在に、紀子は絶望を感じていた。
「では、こちらから参りましょう姫様。簡単に死なないでくださいまし」
魔王安倍晴明は、ゆらりと動き出した。
死が近づいてくる。紀子は腰の力が抜けるのを感じていた。
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