嫌な予感

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嫌な予感

島原雪次祓魔課長は、とても苛々していたのだった。 「その、それは、何だ?真琴君だな?」 「おう。特別に(あつら)えた。おっぱい真琴さん1号だ。着ている服はいつもの奴だが、脱がすとエロ下着が見える。制作費込みで八百万かかった。あくまで抱っこの為の縫いぐるみでアダルトグッズではないのが特徴だ」 「ただのラブドールだろうが!」 「愚か者め。唯一エロスで言うならここだ。おっぱいの間のスイッチを押すと胸部に埋設された小型軽量スピーカーでこんな声が」 「アーン!しゅてきでしゅ!大っきい♡オス蛇ちゃんしゅごく大っきい♡」 「な?凄くいいだろう?」 「嫁のプライバシーを垂れ流すのをやめろ!只でさえ忙しいと言うのに!」 「ああその件だ。解るぞ。それはな、殆ど俺の所為だ」 「それは?」 「ああ。俺の娘だ。あの禍女の皇だ。あいつが動いている。今後どんどん生まれるぞ。如何わしい異能力者がな。怖いのは産まれたばかりの赤ん坊だ。殺す訳にもいかん。何とかする必要がある。それでな?あいつに会いにいこうと思ってるんだが。お前、どこにいるか知らない?」 「俺が知るか。霊視班以下全職員が必死に探しているんだぞ。そもそも羅吽すら発見出来ていないというのに」 「羅吽は放っといても出てくるだろう。元号が変わったのが何より許せん奴だ。他の職員やうちの子供が襲われる前に滅ぼしてやろうと思ってな?羅吽が何なのかも大体解ったしな。お前には教えとこう。奴は皇家が誰よりも憎いんだ。だから、必ず狙ってくるぞ。田所の両親をな。自分達をかつて滅ぼした存在だ。南北朝時代を考慮に入れなければとっくに襲っている。放っておかれたのはずばり、今の皇家が正当な皇家じゃないからだ。あまり口に出せんが」 確かに、後南朝は長禄の変(ちょうろくのへん)で滅んでいる。 だが、それを声高に叫び皇家を攻撃したところで、戦後の偽天皇、熊沢天皇と変わらない。 勘解由小路は相変わらずこちらの考えに先んじて言った。 「ところがどっこいそうでもないんだな。奴は本来大化の改新がなければ、正真正銘の皇家の一員だった訳だ。答えを言っちまえば、温羅と奴は似ている。どちらも大勢に逆らい滅ぼされた、言うなれば土蜘蛛の首魁ということになる。温羅は死後鬼になった。奴は生きたまま鬼になった」 島原は立ち上がった。 「そうか。大化の改新で滅ぼされた蘇我氏の生き残りなんだな。入鹿ではない。入鹿は処刑されている。生きていたとなると、まさか奴は」 「ああ。蘇我氏を改めて滅ぼす。死に損ないをきちんと殺す。それが、祓魔官の仕事だ。俺は祓魔官じゃないが、家庭の事情ってものがある。出来の悪い俺の娘を誑かす馬鹿野郎に目にもの見せてやる。邪魔するなよ島原。俺の言う通り動け。誰も死なせたくはない」 勘解由小路がこんなことを言うとは思えなかった。何かに対して責任を負うなどはこの男に最も遠い。 いつもの昏君(バカ)ではない。何を考えている? 「ああそれからな。出産おめでとう。名前は何と言う?」 「娘か?今も元気にしている。名前は夏帆(かほ)だ。島原夏帆」 「そうか。一度挨拶したかったんだがな。夏帆坊を守ってやれ。じゃあな」 出て行く勘解由小路の背中は何故か薄く感じた。 酷く、嫌な予感が拭えなかった。
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