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思わぬ邂逅
何事もなく京都に到着していた。
途中車両内に弁当カーゴを押した茉莉がギャーギャー言っていた。
紀子対策だろう。電子レベルで高い防御があった。
それもそのはず、年号改元に伴い、紀子は親王になっていた。
守護電霊が始終守っていることを見せつけていたらしく、一切の遅延なく京都駅に到着したのだった。
「あー。京都!京都!BL聖地!壬生狼ご法度だぜええええ!ホーウ!」
「茉莉ちゃんうるさい。何でいるの?」
紀子の周りは実にうざったかった。影山涼白兄妹にライルに静也。あとユーリもいた。
温羅は葦原美鈴のこともあり、おいてきたのだが、恐ろしい霊気が渦巻いていた。やや警備過剰に思えた。
「勘解由小路の野郎に言ってよ。私だって別にいたかないんだし。勘解由小路ゔぉああああ」
「紀子さんは親王でゲス。警護は当たり前でゲス。凄えシャッターチャンスでゲス。発奮するでゲスよウェイトリー!」
社稷図の中にウェイトリーまでいるのか。
「先生にしては万全を期すぎていないか?普通なら適材適所にベストな対策を取るはずだ。敵がいるなら、いるとしたら、敵が見えていない気がする」
「自由行動中ではあるけど、確かに何かおかしいわね。徹頭徹尾あいつらしくない気がする」
妙な違和感が拭えない。あいつは傲慢で鼻持ちならない無責任男であるが、こう言った場面でとりあえず万全な配置というのは有り得ない気がしていた。
一行は清明神社に着いた。一般生徒は通常の観光を、祓魔官は霊的史跡の巡礼をすることになっていた。稀代の陰陽師安倍晴明を祀る神社は、確かに歴史に裏打ちされた霊気の痕跡が強く残っていた。
魔除けの神域というのは事実と思われた。
ああ、本物なのね。安倍晴明。
鳥居をくぐったところで、妙な霊気を感じた。
静也以外の全員の姿はなかった。
あれ?神社にいたのよね?この家は?
そして紀子は気付いていた。ここは、霊気が形作った別の領域。隔離された異界。
あいつの家と同じ。ここは山形ではないが、間違いない。
平安京。
京の都の只中に、紀子の姿があったのだった。
「ここはどこだ?影山さんは?」
背後から信頼出来る声が聞こえて、紀子は胸をなでおろした。
「合流は今は出来ないわ。覚えてる静也?ここがどこだか」
「勿論だ。紀子は出来の悪いヤンキーだったが、履いていたスキャンティーはフリフリで半ケツはプリプリしてていい匂いが」
「よしそこになおれ。焼いてやる。五火神焔扇で燃えろ。ボーボーと。メラメラと燃えて炭になれ」
その時、館に落雷が起きた。燃える屋根はすぐに火が消えていた。まるで自然に。
「あれ?何か覚えがあるわね。祟り落雷事件」
「そう思われますか?まあ我が家に震の卦があるのはそうおかしくはありませんな。なにしろこの国は今震に覆われています故。猛る雷獣が、列島に住み着いてますので」
庭の襖が開かれ、現れた男の姿があった。
年齢不詳の若い男は、白い狩衣を纏い、簡素な烏帽子を被っていた。
「貴方は?」
「まあ来客には慣れてますよ。今日も、とんでもない母子が来訪あそばされましたのでね。私は安倍晴明。しがない巫覡でございます。紀子親王様。拙宅にようこそ」
一礼した安倍晴明の後ろにいた人物に、紀子は言葉を失った。
十二単を軽々と纏い、水干姿の赤ん坊を抱いたその人物の目には、モノクルが光っていた。
「晴明さんの陰態にようこそ。紀子さん、静也君。ここでの再会は、降魔さんの為になりそうです」
「真琴さん。緑君の目の眼鏡は?」
「降魔さんがプレゼントしてくれました。破邪の浄眼対策です。サングラスタイプもあります。ねえ緑くん、パパがくれたプレゼントですよ。ママはパパが大大大好きですよ。緑くんは?」
「ぱぱしゅきー。のいのいもー。がうは嫌い嫌い。みーしゅるぞ」
げ。緑喋りまくってる。
「緑くんに引っ張られる形になりました。降魔さんの足跡を追っています」
思わぬ場所で、思わぬ人物との邂逅があった。
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