こんがり焼かれろ

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こんがり焼かれろ

学園国家アカデミーの廊下を、国王ジョナサン・エルネストと王妃フランチェスカは手を繋いで歩いていた。 「そんなに気にしないでよ貴方。もう三人目なんだから。それに妊娠初期にがっつきすぎよ。流石に鬱陶しいし」 「いや!この王妃様のピカピカでハリのあるおっぱいは誰にも触らせん!妊娠初期は怖いんだぞ?!王子か王女が流産しちゃったら誰を処刑すればいいの?!あと鬱陶しいっつった?」 すれ違う人間達は誰もが王妃の懐妊を喜び、祝福の声を上げた。 「王妃殿下のご懐妊お慶び申し上げます!太陽神ソルスに焼かれろ!ドスケベ国王!」 「きゃあああああ!王妃様素敵です!元気な赤ちゃん産んでくださいね!太陽神ソルスに焼かれろ!発情犬!」 あえて黙殺して外に出た。屋外のテラスからは行き交う国民達が行き交っていた。 馬車に乗った農夫が、帽子を取って挨拶してきた。 「おー!別嬪王妃様!お腹大事に!」 「ありがとうございます!お仕事頑張って!」 手を振り応えた国王夫妻に、農夫はこう付け加えた。 「ソルスに焼かれろ!ドスケベ勇者!」 ぶち。 「流行ってんのか!ソルスソルスどいつもこいつも!焼かれねえよオッケー貰ってんだよ!」 「焼かれかけた男が言うこと?ちょっと時期がずれてるわね。でも今の話を聞く限り、レスターの方が良かったと思うわ」 「嘘?!校長先生?!」 フランチェスカが声を上げ、ジョナサンは平然と言った。 「またかよ。イーサンの愚痴は聞きたくない」 地球神ガイアはジョナサンを無視してかつての生徒に向かって言った。 「お久しぶりねフランチェスカ。彼はどう?」 「相変わらずクンクンしてます。でも校長先生に会えて嬉しいです。暇ならお茶でもどうですか?うちの人の愚痴なら山ほどありますよ」 「やめろって。で?何の用ですか?マザーアースツー。全然出てこなかったのに急にうろつきやがって」 「アースワンに私達の問題が発生しているんでね。その橋渡しを貴方に頼もうと思って」 「それはーーニュクスですね」 ジョナサンを取り巻く空気が変わった。スケべな国王から、気高くどこまでも清廉な一人の勇者に。 「そうよ。ニュクスは古代から存在する神よ。形のないただの闇だったニュクスは、今依り代を得てアースワンにいるわ」 「依り代?つまり、あんたの様な?」 「違うのよ。私もエラルもソルスも、概念としては存在してはいなかったのよ。アースワンから私達はここに飛ばされ、解脱することで神の座が与えられた。ニュクスはもう既に存在していたのよ。今の「神への(きざはし)」というシステムとは別の仕組みで成り立つ存在よ。だとすればそれは私達よりも更に古い神で、私達ですら及ばない。今、いくつか確認していることがあるのよ。場合によってはラグナロクが起こるかもしれない。神々の黄昏とも呼べる、世界の終わりが来る。止めるのよジョナサン。貴方が一度救った世界を」 ジョナサンは言葉を失っていた。
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