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氷上の女帝降誕
警察庁祓魔課の別離 修学旅行魔都探索編
氷上に、美しく着飾った碧の姿があった。
碧は、華麗なスピンを繰り返しながら、伸ばした手は虚空を掴んでいた。
思わず、見守っていた影山は己が胸に手を当てた。掴まれたのは自分の心臓だと思ったのだった。
碧は速度を上げた。ベルリオーズのワルプルギスの夜宴の夢に合わせて跳躍した。
観客がどっと湧いた。女子フィギュアスケーターでは前人未到の5回転半が、平然と完成していた。
まるで平然としている。
あれなら10回転すら可能だな。
恐ろしく高い素質。影山の跳躍能力は20メートル以上に達する。碧とて容易いだろう。
おや?お嬢様の目が一瞬青く光った。
ブルーアイ。氷魂の魔眼。第1の魔眼が誰を捉えた?
冷めた美貌という表現がぴったりな、無欠の演技が終わり、万雷と驚愕の拍手の中、戻ってきたお嬢様が手を伸ばした。
フィギュアスケートでは幼い娘でも厚化粧が基本だが、碧は薄く口紅を塗った以外はスッピンだったが、十分美しかった。
恭しく手を取り、引き上げて言った。
「お見事でした。お嬢様。突然フィギュアですか?始めて3日ですが、演技は完璧です」
「やかましい影山。私だって表現技法を学ぼうと思ったのよ。稲荷山グループにスケーター経験者が学校開いてたからちょうど良かったのよ。で、演技はどうか、コーチ」
コーチが恭しく頭を下げて言った。通常の選手とコーチの関係性は当てはまらない。令嬢というより王族と侍従に似ていた。
「まるで氷上に女神が降り立ったようですわ。優勝は間違いないですお嬢様。この菅田京、お嬢様が世界の頂点に立つのを楽しみにお待ちしております」
「オリンピックは来年だな。ってことは次か。次はどこだっけ?」
影山は即答した。
「北京です。冬季五輪でしたら。夏季はパリかと。しかし年齢制限があります。お嬢様の年齢を考えると、直近は2024年のロサンゼルスかと」
「その頃はもう妊娠してる可能性があるな。まあいい。父親はお前だ」
ひい!菅田が悲鳴を上げた。
影山は努めてそれに取り合わず、碧に聞いた。
「それよりも、あの魔眼は?」
「おかしな力を持った奴がいた。さっき5回転半飛んだ時にな。転ばそうとしたから凍りつかせてやった。まだ凍ってるからとっとと捕まえろ。どうせ二位以下のどうしようもない女だ。思うと最近そういうけったいな力に目覚めた連中が湧いてる。影山、きっちり守れ私を。そうすればお前の子供を産んでやる。現にお前はそういう目で見られてるぞ。深窓の令嬢に乗っかる若いイケメン執事だ。そうだろう菅田」
「そんな!お嬢様はこの国の宝になるべきお方です!簡単に辞めるなど仰らないでください!影山さん!貴方お嬢様のトレーナーではないのですか?!なら何故ここにいるんですか?!部外者はリンクサイドに立入禁止です!」
「菅田。影山は私の執事だ。こいつを排除すれば、私は即座に辞めるぞ。空手にでも鞍替えするか。ママがいるし」
嫌あああああ!菅田が卒倒する中、影山は凍りついたままの妨害者の確保に向かうのだった。
碧の魔眼は更に力を増していた。特に持続力がとんでもないことになっていた。未だに凍ったままだとは。
影山は、執事服の上に最近支給されたブルージャケットを羽織った。
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