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出会い
ノー残業デーの水曜日。僕は繁華街に向かう人々を尻目に、さっさと自宅に帰ってきた。
誰が待っているわけでもないカーテンの開いた小さな部屋は、十九時を回っているにも関わらず薄暗い程度ですんでいる。
陽の長さを実感しながら、換気のために窓を開け、そのまま小さなベランダに出て夜の帳が降りそうな空を眺める。
撫でる風は熱くもなく、涼しくもなく。梅雨の時期のせいか、少し湿気を帯びている。
そんな風に吹かれながら、視線は眺めていた空から、貴樹が働いている繁華街へと自然と向いていた。
七階から見下ろす繁華街の明かりは、空の明るさのせいか、まだ目立つほどのものではなかった。
黄昏時なんてせいでもないだろうに、貴樹との出会いが頭を埋めていく。
一年くらい前。同期との飲み会の二次会で
入ったダーツバーで貴樹は働いていた。
店員の中でも貴樹は一際目立っていた。広い肩幅と、黒い半袖のポロシャツを押し上げる厚い胸板。そして、その上に見えるボウズ頭。身長も僕よりも十センチくらい高い。堀の深い優しそうな二重の目が、ともすれば厳つくなりそうな雰囲気を、穏やかで包み込むようなものに変えていた。
僕は一目で惹かれてしまった。僕とはまるで正反対だった。
小さな頃から見た目は褒められてきた。ただ、周りの評価と自分の評価が一致するわけじゃない。魅力的だと言われる切れ長の目も、中性的で物憂げだと言われる雰囲気も、僕にはコンプレックスでしかなかった。
そんな僕に無いものを、貴樹は全部持っているように思えた。
僕はずっと貴樹に見とれていた。だから、つぶれた同期の一人をタクシーに一緒に押し込み、帰りのエレベーターで二人きりになった時は、顔に出てしまうのを押さえるのが大変なくらい嬉しかった。
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