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1、主婦の朝はパニック
キッチンのテレビが天気予報を伝え始めた。そろそろ子供たちを起こす時間。
珈琲を飲みながら新聞を読んでいた夫がリビングのテレビのチャンネルを変える。天気予報には興味がないらしい。ポチポチとリモコンを押しながら、
「美代子ミヨコ、来て!」
と。
忙しいんだけどと思いながらリビングを覗くと
「これ!このCM、三上の」
って嬉しそうにテレビ画面を指差す。
「三上さん?」
「あいつ初めてコンペで勝った。このパッケージ、いいだろ!この提案から始まってのトータル企画で初勝利」
嬉しそうな顔して。部下の話をするときは本当に親バカの見本みたいな表情を見せる。そんな顔を見るたびに、ほんの少しジェラシーを感じる。
「三上さん、コンペ嫌いだったんじゃないの?」
私の返事を待っていたみたいに、
「そうだったけど、最近前向きだした」
やっぱり嬉しそうに答えた。
「良かったね」
そう返してからキッチンに戻って時計を見る。子供たちを起こす時間まであと10分。
サニタリースペースに行って洗濯の準備をする。小学生になった大が、兄の一と同じ少年野球クラブに入ってから、洗濯物の量は格段に増えた。
天気予報は夕方から雨らしい。
二人のユニフォームだけでも外に干せないかな。
お風呂場のバケツに浸けていたユニフォームを確認していたら玄関で音がする。夫が仕事に行くのだろう。
「お父さん、夕方から雨だから折り畳み傘持ってね」
「鞄に入ってる」
「気をつけてね、いってらっしゃい」
「おぅ」
ドアが閉まる音がした。玄関まで行って見送ればよかったかな。最後にそうしたのはいつだっけ。
ブラシでユニフォーム2着の土汚れを落としていたとき、バタンとトイレのドアが閉まった。一が起きたのかもしれない。
ユニフォームとソックスを洗濯用の網に入れて洗濯機に。液体洗剤を多めに入れてスイッチを入れてから、トイレをノックした。
「お兄ちゃん?マー君?」
「オレ」
トイレの中から一の寝ぼけた声。
「おはよ、もう起きて。このままリビング行くのよ。時間割してるね?」
トイレの中から返事はない。そのまま子供部屋に向かった。
二段ベッドの下で、名前の通り大の字になって大が寝ている。またお腹丸出し。
「マー君、おはよ。月曜日だから学校だよ」
大はフニャフニャと寝言みたいな声を出す。
「マサル、あーさ!」
大のお腹をこそばしていると、後ろのはしごを一が登ろうとしている。
「お兄ちゃん、もうベッド行かないの!リビング行って、朝ご飯!」
一のズボンを引っ張ってはしごから降ろすと、大が布団にくるまっている。
「マサル!朝!」
パジャマのズボンの上からお尻をぽりぽりと掻きながら、一が子供部屋を出て行った。変なところが父親に似てきたと思う。
「お兄ちゃん、着替えだしたの?」
大の布団を剥ぎながらそう言うと、戻ってきて三段ボックスからTシャツを出している。
大の布団を完全に剥いでから、彼の着替えを出した。
「マー君、起きないと知らないよ!お洋服リビングね」
布団の上に座ってまだ半分寝ている大を置いて、子供部屋を出た。
食卓に朝ご飯を並べる。おにぎりと卵焼き。
キッチンに行ってお味噌汁をよそって食卓に行くと、一がもう椅子に座っておにぎりを持っている。
大はまだ来ない。
「マサル!」
子供部屋に行くとまたベッドに倒れている。ベッドから引きずりだして、背中を押しながらリビングに向かわせる途中で洗濯機がピーピーと終了の音を出した。
そのままサニタリースペースへ。
二人のユニフォームを籠に出して、残りの洗濯物を入れてスイッチを押してから、洗濯籠を持ってリビングに戻る。
もたもたと着替えをする大を手伝って、そのまま食卓に座らせた。自分も座っておにぎりを食べようとしたらあとひとつ、大の分しかない。
「お兄ちゃん、3つ食べた?」
「うん」
一は答えて、お椀を片手に持ちながら振り返ってテレビを見ている。
「ご飯食べながらテレビ見ない!お椀かおにぎりかどちらかにしなさい!」
一は不服そうに体の向きを変えた。
「お母さん、ウインナーは?」
大に言われてハッとする。昨日約束したんだ。
「マー君、ごめん。明日ゼッタイ!」
「ええ〜」という声を聴きながら、大に手を合わせてから自分のご飯を入れに立ち上がったとき、一がもぐもぐしながら言った。
「お母さん、スカートはいたら?」
はああああ??
洗濯機がピーピーと音を出している。2回目が洗いあがった。
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