アップデートスプリング

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『アップデートスプリング』  別れた女の数だけ金魚を飼うことにしている。金魚は記憶の女。餌をやるたびに、金魚が泳ぐ姿を見る自分の姿が水面に映る。体をまぐわせたはずの女たちはいつのまにか、現実から幻になり、曖昧な記憶となって、私の海馬を泳ぐ。金魚たちの見分けはつかない。一匹目から三匹目までは区別がついていたが、それ以降は飼う金魚は全て同じ個体に思われた。加えて、飼う金魚を増やせば増やすほど、水槽が美しくなっていく気がした。しかし、満月前夜の月のように、雪の降らないクリスマスのように、満ち足りない、寂しい何かを感じていた。埋まらない寂しさは、毎日決まって就寝時に私の心を襲い、光とは反対の道の先へと、逆光を背に浴びる私の盲導犬となって誘導した。   福島の夜はとても冷たく、怖かった。
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