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第四話 (24)
半焼した理事長宅の焼け跡からは、結局、佑一人の死体しか発見されなかった。
後の二人――ママと五道院玄人の形跡は全く見つからなかった。わたしはどこかほっとするとともに、二人はどこかできっと生きている、そう確信した。
もし、二人が生きていて、いつかわたしの前にまた現れたら――
「パパ、ママって呼んでもいいよね、お父さん」
わたしはベッドの上の父に話しかけた。父は血色がよく、今にも目を開けて起き上がりそうだった。さまざまな思いがわたしの胸をよぎり、知らず涙が頬を伝っていた。
「あら、来てらっしゃったんですね」
なじみの看護師の声が聞こえ、わたしは慌てて指でしずくをぬぐった。
「今日はね、とってもいいニュースがあるんですよ。先生のお話だと、最近、お父さんの反応が以前よりはっきりしてきたって。もしかしたら、近いうちに意識が戻るかもしれないって言ってました」
「そうなんですか。……よかった」
わたしは父の顔を見た。確かに頬にはほんのりと赤みが差し、顔がこころなしかうっすらほほ笑んでいるようにも見えた。
「あんまり期待を持たせてもいけないと思うんだけど、やっぱりあなたには伝えておきたいと思って」
「ありがとうございます。そのお話だけで気持ちが軽くなります」
わたしは感謝の言葉を口にした。看護師は父の様子を確かめると、一礼して出ていった。
「お父さん」
わたしは父の方を向くと、胸に秘めた決意を口にした。
「わたし、しばらくみんなから離れて、旅に出ようと思うの。色んな事を考えて、今までの事を振り返られるようになったら、戻ってくる。もし、お父さんが目を覚ましたら、夢で教えて。すぐに駆けつけるから」
わたしが語り終えると、父の口元にうっすらと笑みが浮かんだ。
――往きなさい。私の事は、気にしなくていいから。
わたしは頷くと、父のベッドに背を向け、病室を後にした。
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