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序章(3)
だめ、瑞夏。まだ死んじゃだめ。
しわがれて、苦しげな響きの声だったが、わたしにはすぐわかった。ギターの聖螺だ。
「聖螺?」
わたしは閉じかけた目を見開いた。ずる、ずる、という音がはっきりと耳元で聞こえた。そのままじっとしていると、仰向けになったわたしの視界に突然、聖螺の顔が現れた。
「よかっ……た、まだ……生きてるのね」
聖螺の顔は、半分以上が黒く焼けただれていた。聖螺は焼け焦げ、血に塗れた顔を嬉しそうにほころばせた。薄い上唇、すこしだけ下がっている両目尻。いつもと変わらない人懐っこい笑顔に、わたしの目からまたしても大量の涙があふれ出た。
「生きてるけど……たぶん、もうすぐ死ぬよ。こんな風だもの」
わたしは無理に笑って見せた。ひとりぼっちじゃなくて良かった。看取らせちゃってごめんね、聖螺。
「ううん。あなたは死なない」
聖螺は大きくかぶりを振った。わたしと同じように炎に包まれたというのに、潤んだ瞳には、力強い光があった。なぜ、と動いたわたしの唇を読み取ったのか、聖螺は優しく言い聞かせるように「それはね」と言った。
「わたしの命を受け取るから。……わたしね、もう駄目なの。右腕と腰から下が、ないの」
わたしは愕然とした。あのずるずるという音は、半分以上を失った体を必死に動かしている音だったのだ。聖螺はそんな身体で、私の所まで来てくれたのか。
「でもね、あなたは大丈夫。詳しく話してる時間はないけど、私の命をあげるから、あなたは死なない。これからあなたは、わたしの分も生きるの」
そういうと聖螺はわたしの、かろうじて残っている右の二の腕に顔を近づけた。
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