序章(6)

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序章(6)

「ママ!」  わたしたち『メアリーシェリー』の所属する事務所、『ファンタスマゴリー』の社長はまだ三十歳の若さだったが、わたしたち所属アーティストからは「ママ」と呼ばれていた。 「だ……れ」  黒こげの身体が、うめき声とともに身じろぎした。生きている!わたしは倒れている人物に歩み寄ると、身をかがめた。 「瑞夏よ、ママ。大丈夫?」  わたしは焼けただれて人相も定かでない頭部に、口を寄せた。見たところ、やけどの程度は姫那を上回っているようだ。悪い予感がじわりと全身を包んだ。だが、生きている以上、何とかしなければならない。 「今、助けを呼ぶからね」  わたしはそう言って立ち上がった。自分で連れ出したいが、到底、動かして良い状態とは思えなかった。 「瑞夏……来て」  咳の混じった声がわたしを呼んだ。わたしが顔を近づけると、ママと思しき人物は口をわずかに動かし、しぼりだすような声を発した。 「倒して……こんなことを……やつを……かたきを取っ」  わたしが聞き取れたのは、そこまでだった。「がほっ」という苦しげな咳を最後に、黒こげの人物は動きを止めた。わたしは立ち上がり、両手で顔を覆った。 「いや……なんなの、これ。こんなの、ありえないっ」  わたしは完全にパニックを起こしていた。かろうじて非常口の前まで移動したものの、ドアノブに手を伸ばせぬまま、その場に棒立ちになっていた。 「誰かいますかっ?」  突然、ドアの向こうから男性らしき声が響いた。助けが来たのだ、とわたしは思った。 「開けますよ、いいですか?」  声はわたしの返事を待たずに、たたみかけた。室内の温度は限界まで高まっていた。いけない、とわたしは思った。火災で熱せられた部屋に急に酸素が供給されると、何かが起こる、そんな映像をどこかで見た気がした。 「ドアから離れてくださいっ!」  切羽詰まった響きがわたしの耳に突き刺さった。やめて、この部屋はもう、駄目なの!  ガン、という金属を撃つ音が聞こえ、ドアが押し開けられようとした。わたしは警告を発しようと口を開いた。次の瞬間、轟音と閃光がわたしを包み、闇が全てを呑み込んだ。
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