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第一話(3)
まだ、死者を悼む人がいたんだ。
わたしは人影に歩み寄った。細身の男性だ。男性は供えた花の前に屈み、瞑目していた。
「お花、綺麗ですね」
そう声をかけると、男性は目を開け、顔をわたしの方に向けた。面長で鼻筋が通っている。整った顔立ちだが、眼差しに剣があった。
「火事があったんです、ここで」
男性はぶっきらぼうに言った。二十代だろうか。大学生にも、社会人にも見える。ブルゾンもパンツも、靴まで黒なのは礼服の代わりだろうか。
「知ってます。その時、ここで見てましたから」
わたしが短く返すと、男性はぎょっとしたように目を見開いた。人形のようだった瞳に、初めて感情の光らしき物が覗いた。
「あの火災のあった日、わたしはここのステージに出演するはずだったんです」
若干の後ろめたさを覚えつつ、わたしは言葉を重ねた。爆発に巻き込まれたことは、いまのところ誰にも言うつもりはなかった。
「そうだったんですか……」
男性はわたしに向き直ると眉を寄せ、唇を引き結んだ。
「僕の友人が、ここで亡くなりました。おそらくステージでギターを弾いている最中に」
わたしは、はっとした。まさか。
「そのお友達って、バンドをやっていたんですね」
恐る恐る尋ねると、男性は無言で頷いた。男性の言う友人とは、聖螺の事に違いない。
「女性だけのロックバンドで、『メアリーシェリー』っていう名前でした。友人はそこでギターを弾いていたんです」
男性は絞り出すようにそう言うと、俯いた。その横顔を見た瞬間、わたしは右手の指先に、痺れるような痛みを覚えた。
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