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雨を待つ傘
「降ってないですよ」
透き通って綺麗なその声が僕にかけられたものだと気づいて顔を上げた。
「雨」
声に似て小綺麗なその顔は頰を緩ませ、薄紅色の隙間から白い歯を覗かしている。それでいておっとりしているその目は僕を見つめている。
「そう」傘を閉じると目が合った。
今でも思う、ありきたりな出会いだったと。
それから1年経つ。雨の季節が過ぎて、暑くなってしばらく、また寒くなってしばらくして暖かくなって、雨の季節になった。
「お待たせしました、ミラクルパフェです」
ポニーテイルの店員が彼女の前にパフェを置いた。
店内を見回すと僕と彼女の他に客は少なく、初老のおばあさんが若い男の店員さんを引き止めて世間話をしているのと中年のサラリーマンが携帯をいじっているのとぐらいである。
「それでね、私のお母さんね、倒れちゃってね、ウケる」
「そう、よかったね」さっきまで彼女はお母さんの悪口、主に口うるさいだの、頭が悪いだの、週一で通っているヨガ教室のインストラクターと関係を持ってるだのを並べていたのだが、この前お父さんにインストラクターと母の仲をバラしたという話をして笑っている。
「そういえばさ、こんなの聞いたことある?...ファフロツキーズ」妖しい笑みは、また白さを覗かせた。
「あの...蛙が降ってくるやつだっけ?」
「うん」
「それが?」
「今日、蛙が降ってくるよ...とびっきりたくさん」
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