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烙印TATOO
この世の中には「大人ルール」と「子どもルール」がある。
大人だから許されるルールと子どもだから許されるルール。
この二つのルールの微妙なバランスで、世の中は成立している。
英語で書くと「RULE」
辞書で調べてみると、原理、原則、法律、規則、通例…そして「支配する」と出てくる。
☆ ☆ ☆
小学校入学は俺にとって衝撃的だった。
なんで知らない人が、こんなにいるんだ?
今まで保育園が全世界だったのに、もっと広い世界があるんだと教えられる。
しかもそれぞれの幼稚園や保育園で、すでにコミュニティーが出来ており、「多数決の原理」を初めて知らされた出来事。
なんとか一年間をかけ壁を乗り越え、俺にもなんとなくコミュニティーが出来始めた小学二年生。
家が同じ方向の友だちと帰っていると、線路のところに人が集まっている。
みんな、なにしてんだろ…?
顔はわかるけど、まだ名前が出てこない同級生たちが、何かを見せ合っている。
「すげーだろ?こんなにペッチャンコになるんだぜ!」
みんながやっていたのは、線路の上にいろんなものを置いて、電車の車輪で潰してもらうというもの。
おもちゃのコインやグリコのおまけ…いろんなものが、ビックリするぐらいペッチャンコになっていた。
「じゃあ俺は次これにするー!」
「俺も、俺もー!」
同級生たちは次々に、線路の上に置きはじめた。
「あなたたち!なにやってるの!!!」
近くに住んでいたおばさんが大声で飛び出してきた。
条件反射的に蜘蛛の子を散らすように逃げていく子どもたち。
逃げなきゃ…あっ…!
線路の上には潰そうと置いていたものがそのまま。
「…なにしてるの!早く逃げないと…」
「でも、このままだと…」
俺は急いで戻り線路からそれを撤去しはじめる。
ガシッ!
「捕まえたわよ!あなた、何年何組の子?」
「いや…俺は、見てただけで…」
「嘘言いなさい!私はずっと見てたのよ!」
凄い力で羽交い締めにされる。
気がつけば俺一人になっていた。
☆ ☆ ☆
「だから俺は見てただけで…」
小学校の会議室。
俺は5~6人の先生たちに包囲されていた。
「嘘を言うな!ちゃんと近くのおばさんも、お前がやったのを見てるんだぞ!」
「だから、やってたのは、俺じゃなくて…」
「じゃあ、誰がやってたんだ?名前を言え!名前を…!」
「顔はわかるけど名前までは…」
「言えないって事は嘘じゃないか!なぜ嘘をつく!」
何を言っても信じてもらえない。
そこに呼び出された俺の母親がやってきた。
「あなた、なにをしたの?」
「だから俺はやってないんだって…」
見たことの全てを説明する。
「…あなたはやってないのね。線路に残っていた物を取っていたのね?まちがいないのね?」
「ああ…見てただけだよ…」
「お母さんまで…あのですね、この年頃の子どもは平気で嘘をつくんですよ!だいたい見ていた人もいるんですよ!」
「確かに子どもは嘘をよくつきます。でも、今、この子が言ってることは本当のことです。」
「本当だと…?目撃者がいるって言ってるでしょ!」
「それでも私は信じます!」
「この親子…話にならないな…」
俺の母親は、最後の最後まで、俺を信じてくれた。
でも結局、俺のジャッジは、嘘つきから変わることはなかった。
この日のあと、何回も何回も放課後に呼び出される。
「…あなたの見てた同級生のことだけどね…」
俺の事を信じてくれる先生も、いるにはいた。
「名前がわからないから、あの時間にあそこを通るみんなに聞いてみたのよ…」
「で、置いてた人はわかったの?」
「それがね…」
みんなやってないと言ったそうだ。
俺一人が線路で遊んでいたと…
「信じてあげたいんだけどね…証拠が出てこないのよ…」
「絶対に俺はやってないんです!!!」
俺はこの日から「線路に物を置いた少年」と言う見えないプレートを貼られることになる。
どんだけ外そうとしても外れないプレートを…
このプレートの威力は絶大で、このあと何か学校で問題が起きると、必ず疑われることになった。これは小学校を卒業するまで続く。
そしてこれは俺だけのことではなく、俺の家族にまで影響することになる。
みのる。
あのさ…
嘘をつけないんじゃないんだよ。
こいつらみたいな人間になりたくないから、嘘をつかないんだよ。
こいつらを認めちゃダメなんだよ。
わかってるよ。そんなことやってたって、何も変わらないって…
でもね…
認めちゃうと自分がなくなっちゃうんだよ!
俺が俺でなくなっちゃうんだよ!
少しでも気を緩めちゃうと、俺もあっちの人間になっちまいそうなんだよ!
それがどんだけ怖いことか…
わからなくてもいいよ。
これは俺の問題だから…
こんなことがあったからどうだってことじゃないし…
ただ絶対に逃げちゃいけないものってあると思うんだ。
納得出来ないなら、とことん立ち向かう。
それが俺が俺である証拠だから。
☆ ☆ ☆
こんな出来事を話しちゃうと、「なんて酷い学校だ!」なんて言う人がわんさかいると思うんですが、こんなことよくあることだと思います。
大人たちの対応はある意味あってるんですよ。だってみんなが嘘をついたってこともありますが全く証拠が出てこない。だから俺は信じてもらえないんですよ。(今は誰があの時いたのか分かってますけどね。)
誰が本当で誰が嘘かなんて、なかなか見抜けないもんです。はい。
この出来事のおかげで、わずか小学二年生で人間のおかしな部分も理解出来たし、判断力も上がったし、そう考えるとよかったのかな…って。
嘘だけが悪いのではなく、嘘を見抜けない人が一番悪い。
生まれてから一度も嘘をつかない人間なんていない訳ですし…
さて…
お話しは小学五年生のガンプラ事件のあとに戻ります。
どんどん勢力が増す岡田軍団。
頭によぎる「おとなしくしてりゃ…」と言うみのるの言葉。
でも我慢できないものは我慢出来ないのです。
次回「ギャラクティカマグナム」
お楽しみに
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