みのる登場!

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みのる登場!

ザッ…ザッ…ザッ…ザッ… 機械の前に立つと両手でガッと掴み まるで重量挙げのように頭の上に持ち上げた。 「うりゃーっ!」 「み…みのる…???」 ☆      ☆      ☆ 高度成長期も落ち着き人々の暮らしも豊かになり、これから貧富の差が顕著になる時代のお話。 小学五年生になり自分で自由に使える「おこずかい」と言う魔法のアイテムを手にしだした周りの仲間たちの集合場所は、今まで野山を駆けまわっていた時とはガラリと変わり、駄菓子屋などになることが多くなっていた。 「今日も駄菓子屋に行こうぜー!お前も行くだろ?」 「う…うん…俺はやめておくよ…」 小学三年生で父親を亡くした俺の生活は更に厳しくなり、急に訪れたお金で遊びを手に入れると言う流れには全く付いて行けなくなっていた。その為、幼少の頃からの自分が気になることは納得するまで調べると言う探求心が加速し、みんなと距離を置くことが多くなっていた。 今日の謎の追究のテーマは、駅前のスーパーの入り口にずらっと並んでいる「ガチャガチャ」 10円玉を二枚重ねレバーをぐるっと回すと小さなカプセルに入った景品が出てくるのだが、何に使うか分からない子どもでもわかるガラクタばかり。 しかし当たりは明らかに違う。 もちろん景品も魅力なのだが、なんたって当たりを引けば、みんなのヒーローになり、自分のアイデンティティーを最大限に主張できるようになる。 狙うは当たり一本! 機械の隙間から何回も覗き込んで分かったこと。 一つの機械の中に当たりは2個か3個ぐらい。 中にはカプセルが40個ぐらい入っているから、当たりの確立は約20分の1。 20円 × 20回 = 400円 どう考えてもヒーロー優待券を手に入れる為とは言え、俺にとっては高すぎる。 ずっと機械のそばで隠れていて、残りが少なくなって狙う… いやいや、それまでに当たりが出てしまうと、確率はさらに下がる。 どうしたらいいんだろうと頭を最大限に回転させていると、どこからともなくアイツが現れた。 「何してんの…?」 同じクラスのみのるだ。 こんな俺が言うのも変だが、みのるは何だかよくわからないけど、人が寄りつけないオーラみたいなものが出ていて、いつも一人で行動している奴。 たぶん話しかけられたのも初めてだと思う。 「い…いや…どうやったら当たりが出せるのかと思って…」 「ふーん…」 みのるは「ニッ」と少し笑い、機械の方へ歩き出した。 あれ…?こいつの後ろ姿って、こんなに大きかったっけ…??? ザッ…ザッ…ザッ…ザッ… 機械の前に立つと両手でガッと掴み、まるで重量挙げのように頭の上に持ち上げた。 「うりゃーっ!」 「み…みのる…???」 ガシャッ!ガシャッ!ガシャッ!… 頭の上で機械の上下を逆さまにすると、数回大きく上下に振り、勢いよく元の位置に戻した。 ガンッ! 「これで中を見てみなよ!」 人間は自分の思考以上の出来事に対して無力である。 本当にその通りだ。何が起きてるんだ? 「ほらっ!こっちに来て…」 「あ…ああ…」 必死で高まる鼓動を押さえつつ、機械の隙間から覗き込むと、驚く事が起きていた。 当たりが全て下に来ている。 「こ…これって…あっ!」 なるほど、そう言うことか! 「ガチャガチャ」に入っている当たりは、外れのカプセルとは違いカプセルと同じ大きさのプラスチックで出来た当たりと書かれた玉。 機械を逆さまにして振ると、重い物は下に沈み軽い物は上に浮いてくる。 つまり当たりが上に出てきた状態で、一気に機械を戻したので、当たりが全て下に来たのだった。 「これで簡単に当たりが出せるでしょ?」 確かにそうだ。これは全く思いつかなかった。 でも…でも… 「でもこのやりかたって、ダメでしょ…?」 みのるは「ニッ」と再び少し笑うと、ゆっくり話し出した。 「あのさ…そのダメってなによ?そんなルールどこにあるのよ?このガチャガチャって機械を作った人は、まさかこんな事をされるのを考えていなかった。ただそれだけの事じゃない?もしも俺たちよりも先にこれをやった人がいて何か問題があるならそれが出来ないようになってるハズじゃん。どこにもそんな事は書かれていないし、だいたい機械を壊した訳じゃない。ちょっとだけ振っただけの話。本当にダメな奴ってのはこの機械を壊したり、機械そのものを盗む奴の事を言うんじゃねーの?」 頭の中で何かが弾け始めていた。 「それにさ、お前、このやり方がわかったところで絶対にやらないでしょ?お前が知りたかったのはどうやったら簡単に当たりが出るかの方法。で、俺はそのやり方を教えた。ね…?もう満足しちゃったでしょ?」 なんだこいつ。なんなんだよ。 「じゃあ…」 なんだよ!もう行っちゃうのかよ! 「ちょっと待てよ!」 「ん?まだ何かわからないことがあるの?」 「いや…そうじゃなくて…なんて言うか…」 何か言いたいんだけど言葉に出来ない。 やっと出てきた言葉。 「お…お前、前から思ってたんだけど変な奴だよな…」 「変…?」 「いや…変だけど面白いよ。うん…めちゃくちゃ面白い!」 「変ってなんだよ!失礼な…」 「いいやつだよ。うん、まちがいなくいい奴だ。」 「何言ってんだよ突然…じゃあな!」 そう言うとみのるは行ってしまった。 なんだこの反応。さっきからニヤニヤが止まらない。 「あのさー…」 帰りがけのみのるが振り向き、こっちに大声で叫んできた。 「お前もいい奴だよー!」 そう言い残すとみのるは、そそくさに走り去って行った。 ☆       ☆      ☆ 突然の出会いで始まった二人の友情。まさかこのあと、あんなことやこんなことが起きるなんて… 二人の距離が近づくにつれ、俺はとうとうみのるのオーラの秘密を知ってしまうことになる。 次回「ちびっこ残酷デスマッチ」 お楽しみに
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