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ちびっこ残酷デスマッチ
子どものブームは成長と共にころころと変わる。
この時代で言えば、ブリキからソフトビニールへと変わり、戦隊もののアニメブームより超合金が生まれ、その途中に外国よりゲイラカイトやルービックキューブなど…とにかく高度成長期と同じように激しく変動していた。
一番衝撃的だったのがプラモデルの登場。
それまでプラモデルと言えば車や戦車やお城など、一部のマニアックな大人の趣味だったものが、ガンダムの登場により一気にチビッコたちのブームとなった。
今でも全く変わらない俺の性格。
みんなと同じ物が嫌。
小さい頃から一人遊びで鍛えてきたせいか、小学校四年生ぐらいから、みんなとのズレを感じていた。みんなが新発見と大騒ぎすることをもうすでに知っていたり、子ども特有の意味のない行動を幼く感じ始めていた。
好奇心は抑えきれず、小学四年の時に小学館の小学五年生を読み始め、五年生になった時には小学六年生を愛読していた。(このせいで後に毎月買いに行っていた本屋さんの店員さんに小学六年生の春に「小学校卒業おめでとう!」とお祝いを貰うという事件が発生する。)
みんなは毎週放映されるガンダムに夢中。
しかし俺はそれが気に入らない。今、考えると幼稚な思考だったと反省する点が多いのだが、みんながキャーキャー騒いでいる物はどうせ子どもっぽいものだろうと相手にしていなかったのだ。
だが、ガンプラ(ガンダムのプラモデル)はときめいた。
こんなへそ曲がりな俺でも惹きつけてしまうほど、ガンプラブームは凄かった。
次から次へと登場するかっこいいモビルスーツ。それと同時に、ガンプラを持っている子どもたちも爆発的に増えていった。
欲しい…とっても欲しい…でも…でも…
毎日必死で働いている母親に頼み込むなんて出来る訳ない。
アニメを見ていない(見ようとしない)俺は、仲間はずれになることが多くなっていった。
子どもの無邪気さは時として人を攻撃する。
ガンプラブームが広がるにつれ、ガンプラをたくさん買える人、たくさん買えないので自分の好きなキャラだけ買う人、俺みたいに欲しいけど買えない人…
今までは考えたこともなかった「貧富の差」と言う現実が、子どもたちを直撃する。
ガンプラと言う権力が次第に子どもたちを支配していく。そしてその権力は次々に子どもたちの心を破壊し、従わせるように仕向けていった。
☆ ☆ ☆
「あっ…お前もよかったら来る?」
そう声をかけてきたのは岡田。小学校四年生の時に転校してきた奴だ。
岡田の父親はプロゴルファーでお金持ち。でもそんなことはまったく表に出さず、ひょうきんな性格もありすぐにみんなと打ち解けた。
しかし、ガンプラブームで岡田は暗黒面に足を踏み入れ始めていた。
「見たくないなら別に来なくてもいいけど…」
今日もガンプラ展覧会が岡田の家で開かれるようだ。
みんなの移動がはじまると、一番後ろにいた奴に声を掛けられる。
「お前も来いよ!岡田、すげーいっぱい持ってんだぜ!」
あまり気乗りはしなかったが、岡田軍団の一番後ろを付いて行くことになった。
岡田の家に着くと中から次々に声が湧き出す。
「うわー!すげー!こんなにたくさん…」
「これ!この辺じゃ手に入らない奴じゃん!」
なんだと!早く見たい!
急いで家に入ろうとすると岡田に止められる。
「お前きたないから、くつした脱いで足を洗って…」
「な…なに言ってん…」
「聞こえなかった?きたないから、そのままじゃ無理って言ったんだよ。」
怒りで岡田をにらみつける。しかし次の瞬間、岡田の姿と同時にみんなの姿も目に入ってきた。
みんな岡田の発言は間違いだと気付いている。でもガンプラの権力には立ち向かえずそれを否定できない。
みんなの表情からそれは簡単に理解出来た。
そっか…みんなわかってやってんだ…
俺は岡田の家を一目散に後にした。
確かに俺、つぎはぎだらけのズボンとかはいてて、きたねーもんな…
あそこで喧嘩とかしてたら、みんな楽しんでいるのに、ぶち壊しちゃうもんな…
必死で理解しようと頑張ってみる。
いや…どう考えても我慢できない。
俺はあいつらみたいに心を殺される訳にはいかない。
権力だけが生き残れる世界なんてまっぴらだ!
振り返り、岡田の家に戻ろうとすると後ろから声を掛けられた。
「あれ?お前?何してんの…?」
みのるだ!
「お前の家ってこっちじゃないでしょ?」
みのるはどう思うんだろ。
俺は出来事を興奮気味に全てみのるに話してみた。
「ふーん…」
みのるは「ニッ」と少し笑い
「ちょっと俺んちに来てみない?」
えっ?な…なんで…?
みのるは不敵な笑みを浮かべながら驚く俺の手を引っ張り、強引に家へと連れて行った。
☆ ☆ ☆
突然現れたみのる。何も言わず家へと連れて行く意味とは?
果たしてそこに何が待っているのか?
次回「寄せ付けるお前と寄せ付けない俺」
お楽しみに
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