ギャラクティカマグナム

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ギャラクティカマグナム

俺には不思議な縁のある友だちがいた。 ター坊 ター坊は保育園から高校までずっと一緒…しかもクラスまで一緒だったもんだから、本当に不思議な縁だ。 高校二年で初めて違うクラスになったんだけど、それまでの10年間、ずっと同じクラス。 参観日で俺の母親とター坊の母親が、「また一緒なんですね!」と喜ぶのが恒例行事になっていた。(高校二年生で違うクラスになった時、二人ともどんだけ悲しんだことか…) ター坊は争いを好まないタイプ。グループ別の行動がはっきりしてくる小学校高学年ぐらいからそれは顕著に表れ始めていた。 何を言われても怒らない。今思えば、自分を守るための行動だったのかな…とも思う。 ☆       ☆      ☆ ガンダムブームはとどまることを知らず、どんどんガンプラを持つ子どもたちも増えていった。 それと共に、ガンプラを持てない俺とみんなの距離は、少しずつ離れていった。 財力のある岡田の勢力はさらに増し、クラスのリーダー的存在になっていた。 何をするにも岡田が全て決める。それにヘコヘコと従う周りのみんなが俺は嫌でたまらなかった。 「おい!ター坊!お前なんで避けねーんだよ!」 教室で怒鳴りつける岡田。 「い…一生懸命逃げてんだけど…」 休み時間のドッジボールの話しのようだ。 「ほら、ここに立てよ!」 教室の後ろに立たされるター坊。 それをニタニタと眺める岡田軍団。 「俺が避けるコツを教えてやるよ!ほら、避けな!」 そう言って、ボールをター坊にぶつける。 「ほらほら…ちゃんと避けないと…」 何回もぶつける岡田。 「ちょ…やめろよ…」 「お前が避けねーからダメなんだろ!ほら、避けろよ!」 バンッ…バンッ… チッ! ター坊、ヘラヘラ笑ってんじゃねーよ! 「お前ら、いいかげんにしろよ!」 「あれー?なんだお前?なんか文句あるのかよ!」 「文句って言うか、見てて気持ち悪いんだよ!」 「なんだと!きたねーお前が俺に気持ち悪いとか言ってんじゃねーよ!」 「俺のどこが汚いんだよ!」 「うるせー!!!」 バンッ! ボールを顔にぶつけてきやがった。 さすがに我慢出来ない。 「うりゃぁぁぁぁぁ!ギャラクティカマグナムー!!!」 ボカッ!!! 怒りの右ストレートが岡田の顔面にヒット。 ここでマンガなら必殺技がでると相手が吹っ飛んでくれるんだけど、現実はそんなに甘くない訳で… 「いってぇー!このやろー!やりやがったなー!」 このあと岡田軍団に囲まれ、あっという間にボコボコに… ☆       ☆      ☆ 俺の右手は包帯でぐるぐるに巻かれていた。 「あれー?どしたの?どれどれ…」 ニコニコしながら俺の右手の包帯をジロジロと眺めるみのる。 「折れてなかったんだってね。残念…捻挫ぐらいで済んで良かったじゃん。」 「う…うるせーよ…」 「あのさ、お前さ、喧嘩のやりかた間違ってるよ…」 そう言ってみのるはゆっくりと話し始めた。 「喧嘩ってのはさ、自分を守るためにやるもんなんだよ。だから絶対にこっちからしかけちゃダメ。喧嘩と暴力を間違えちゃダメだよ。」 暴力…? 「我慢出来ないから人を殴るってのは最低だと思わない?俺はかっこ悪いと思うけどな…」 「でもボールを先にぶつけてきたのは岡田…」 「じゃあお前もボールをぶつけ返せば良かったじゃん。岡田が殴ってきた訳じゃないでしょ…?」 「そりゃそうだけど…」 「先に手を出した時点で、お前はかっこ悪いんだよ。自分に負けちゃってんだよ。」 自分に負ける… 「カーッとなって相手を殴って、自分も怪我をして、最高にかっこ悪いじゃん。」 「……………」 「だいたい、お前は喧嘩なんかやるキャラじゃないんだよ。喧嘩なんかあまりしたことがないくせに…」 「それは…」 「喧嘩ってのは俺みたいなのがやってりゃいいんだよ。喧嘩しか残ってないやつ。お前は喧嘩以外に話し合いが出来ちゃう人でしょーよ。」 「なんだよ、それ…」 「お前は逃げずにちゃんと立ち向かうでしょ?俺は逃げちゃうから…だから自分を追い詰めちゃって、最後は喧嘩しかなくなる…」 「みのる…お前…」 「とにかく…お前は喧嘩しちゃダメってこと!」 「ニッ」と笑うみのる。 喧嘩はかっこ悪い…か… そんなこと、考えたこともなかった。 「でも…でもさ、先に殴ってきたら、こっちもやり返していいんでしょ?」 「う~ん…なるべく喧嘩しない方がいいんだけど、意味のある喧嘩ならやるべきだと思うよ。」 「意味のある喧嘩…?」 「そうそう、意味のある喧嘩…やるならかっこいい喧嘩をしないと…」 喧嘩は自分を守るためにやるもの。 なんだかわかったような気がする。 「でもさ、お前って、本当にかっこいいんだか悪いんだか、よくわからないやつだよね。」 「なんだよそれ…?」 「ター坊を守るために立ち上がるまではかっこいいんだけど、そのあと捻挫しちゃうなんて…ククククク…」 「わ…笑うなよ!すんげー痛かったんだぞ!」 「だいたい顔を殴るなんて、まずそこが喧嘩の素人の証拠!あんな骨の固まりで的が小さいところを狙うなんて…マンガじゃないんだから…」 「じゃあ、どこをやったら良かったんだよ?」 「手より足の方が長いんだから、足を使ってボディを蹴るんだよ。それだったら当たる確率も高いし相手のダメージも大きい…間違っても足は捻挫しないし…ククククク…」 「だから笑うなって!」 そのあと、みのるの喧嘩教室はしばらく続いた。 お互いにダメージが最小になるように、とにかく相手を倒して上にまたがる。 一分もまたがっておけば相手の戦意がなくなるので、それだけで喧嘩には勝てる。 喧嘩は終わり方が重要で、そこが、かっこいい喧嘩につながる。 とにかく喧嘩はやらない方がいい。 学校の帰り道、俺はみのるの話しを思い出していた。 みのる…お前すげーな。 ひょっとしてお前の体の傷って… みのる。 お前は逃げてなんかないよ。 ちゃんと立ち向かってる。 みのるの背中が時々大きく見える理由が、分かったような気がした。 ☆       ☆      ☆ 男の子なら、子どもの時ってアニメの必殺技とか、自分でも出来るって思ってませんでしたか?明日のジョーのクロスカウンターや、リングにかけろのブーメランフックとか…(もう少しあとになると、北斗の拳の北斗神拳とか…) 今思えば、バカバカしいお話なんですが、子どもたちは本気なんですよ。叫べばスペシウム光線が手から出ると信じている。 今以上にテレビが面白かった時代の証拠だったと思っています。(子ども向けの番組も多くて、とっても真剣に作られていた時代でした。) さて… ちょっと男臭いお話が続いてましたが、次回はなんと初の女の子の登場です。 背がとっても小さくて、おめめクリクリの女の子。 いつの間にか俺は、その女の子から目が離せなくなっていた。 次回「メロディ・フェア」 お楽しみに
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