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異臭は途切れない。けれども男の鼻は最早そんなことを気に留めていない。
麻痺に陥っていただけかもしれない。それでも既に、そんなことを気に留める思考を失っていた。
男が注視するものは一点だけだった。見るからに汚い人間達が耳障りな音楽に合わせて楽しげに踊っているのだ。その風貌はまさしく、絵に描いた死霊だった。
音の発生源は煉瓦に座る髭男の弾くリュートだった。
男はこの時、あの楽器がリュートという立派な楽器であることを知らなかったが、この楽器は駄作であると決め込んだ。
それらの現実離れした光景を目の当たりにした男は、一瞬たじろぎ、まっすぐな恐怖が心臓を締めあげた。
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