序幕

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 鬱蒼(うっそう)とした森である。  紫色の広葉樹ばかり(しげ)り、腐った卵の臭いが充満していて鼻が可笑しくなりそうだ。  異臭は辺りを漂う青白い霧から生じている。  鼻先を洗濯バサミで抑えようが、鉄のマスクで覆おうが、どうにかなる臭いではない。  黒い羽がはらはら落ちてきたのを見て空を仰ぐと、真上には鷹のように大きい(からす)の群がグカァーグカァーと舞っていた。  左右をちろちろ見やれば、地面に土下座するように(しな)びた花や枯れ草があって、そこに百は目がありそうな蜘蛛(くも)や、濁点模様の蜥蜴(とかげ)なんかが、息を潜めるようにうじゃうじゃ居る。  あまりに気色悪い。  一陣の風もないどころか、湿った空気がこもっていて、べとりと汗が皮膚に絡みつく。  風がないと言ったが、何故か紫色の広葉樹の葉はわさわさ揺れていた。  ぐわり、ぐわり、と放出する森の気からは(むくろ)に抱擁されるリアルな感触があった。
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