病院_1

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それは紛れもなくわたしに向けられた言葉。しかも脅迫を孕んだそのセリフにわたしは凍りつく。 でも、考えようによってはこれは助けともとれる。 正直に言う? それともシラを切り通す? 睨み合う数秒の間にどちらを選ぶか必死に考える。 星さんはサトシさんの友達で、今わたしはその友達に取り憑いている幽霊、もしくは生霊のようなもの。 かと言って、サトシさんに恨みがある訳でもなく、まして危害を加えるつもりなど毛頭ない。 元に戻る方法があるなら知りたい。 「正直に言う、けど、いきなり除霊したりしない?」 両手を挙げて降参のポーズ。星さんはしばらくわたしを睨んだあと、大きく息を吐き出した。 「またかよ」 吐き出すように言って、頭を抱えてしゃがみこむ。 ま、また? またってことは、前にもこういうことがあったってことだよね? 「教えてください! 元に戻る方法!」 星さんの目線に合わせて、わたしもアスファルトに膝をつく。 「そんなの俺に分かるかよ!」 「でもさっき『また』って言ったよね? 前にもあったんでしょ、こういうこと。その時はどうなったの? 教えてください、星さん」 わたしの悲痛な訴えが通じたのかどうか、星さんは車の助手席を指さし、わたしに乗れと合図する。 わたしはおとなしく車に乗り込んだ。 「とりあえず、サトシん家に行くから」 星さんはハンドルを握ると、慣れた手つきでエンジンをかけ車を走らせた。 「あの時、あんたを助けて心臓マッサージしてたのはサトシだった。その前と後はあんただな?」 「うん」 「あの時何があった? 詳しく話して」 わたしはできるだけ詳細にあの時起こったことを星さんに説明した。 話し終えると、星さんはしばらく考えるように黙り込んでいた。 「多分だけど、あんたが帰る場所はさっきの病院で寝てるあんたの体じゃない」 信号待ちで停車した時、星さんはわたしの方を見てそう言った。 「それって、もう……」 わたし死んじゃうの? 「うまく説明できないけど、あんたは別の世界からこっちに飛ばされてきたんだと思う」 いきなりSFチックなことを言われて、わたしはなんと言っていいか分からなくなる。 「ど、どういうこと? 別の世界って、世界はひとつだよね?」 夢の国のお人形たちさえそう歌ってる。 「並行世界って聞いたことある?」 星さんはあくまで真剣に話している。わたしをからかおうとか、騙そうとか、そんな風には見えない。 「パラレルワールドってこと?」 「そう。多分ね。前がそうだったから」
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