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「ちょっとそこ片付けといて」
星さんが指さした先にある小さな机は、コピー用紙とペンやハサミなどが作業途中で置かれている。
それらを重ねて脇に置き、ついでにその周りの床の本も積み直す。
難しそうな本もあれば、小学生向けの課題図書みたいなのもある。
わたしの読みたかったミステリー小説もあった。
棚に並ぶ文庫本のいくつかはわたしの部屋にもある。好きな本が同じかもしれないという推測に少しだけ気持ちが上向いた。
星さんがカップラーメンを二つ運んできた。ギガ盛り、なんていう見たこともないような特大サイズだ。しかも電子レンジがピーッと音をたてたかと思えば、ごはんがこれまた二つ。
最後は冷蔵庫から取り出してきたキムチ。
それらが並んだ机の向かいに星さんはどかっと胡座をかく。
「富澤のラーメン食いにいくつもりだったけど、店の中でこんな話できないからさ。今日はコレで勘弁な」
そう言って手を合わせると、ごはんにキムチを乗せ、勢い良く食べ始めた。
「ん!」
星さんが突然お箸をわたしの方に向け唸った。
口の中のごはんを飲み下し、ぽかんとするわたしにごはん粒を飛ばしそうな勢いで、
「中身は女でも、体はサトシだからな! 少食です、なんて言ってっとサトシが痩せちまうだろ? 食え!」
と容赦ないお言葉。
「は、はい! いや、でも炭水化物に炭水化物はどうなのかなぁと・・・・・・」
「明日ウチの野菜持ってきてやるから、今日はコレで我慢しろよ。あ、それと」
星さんは箸を置くと、居住まいを正して真剣な表情を浮かべる。
「金のことだけど。必要最低限はオレが貸してやる。だからサトシの物を勝手に売ったりとかするなよな」
星さんの言葉にわたしは何だか胸がじーんとなった。
わたしにはここまで心配してくれる友達がいるだろうか。
変な女に取り憑かれた友人から逃げもせず、サトシさんの生活を守ろうとしている。
もし、自分の体が他の人に乗っ取られてしまったら、そう考えればその恐ろしさが良くわかる。
過去に同じような体験を経て、サトシさんと星さんはわたしが考える以上の大変さを味わっている。
見ず知らずの人間の魂なんて、今すぐ追い払ってしまいたいに違いない。
それでもわたしを受け入れ、協力してくれようとしている二人に、わたしはどうやってお返しすればいいのか分からない。
今はただ、二人の好意に甘えて、一刻も早く元に戻る方法を探すしかない。
「星さん、サトシさん。お世話になります。なるべくお二人に迷惑がかからないように気をつけます。助けてくれてありがとう」
最後は涙声になりながら、わたしは勢い良くラーメンを食べ始めた。
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