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時間にすればわずか数分にもならないその間に、わたしはサトシさんの体から出て闇に取り込まれそうになり、またサトシさんの中に戻った。
肉体を持たない魂の状態のわたしはとても不安定で、あのままでは元に戻る方法を探すどころか、あっという間に消えてしまいそうだった。
サトシさんがわたしを体に入れて守ってくれていることに漸く気付いた。
自分の体に戻れないわたしは、魂のままでは長く存在することができないんだ。
サトシさんはそのことを知っていて、わたしを見殺しにすることができなかったに違いない。
だってわたしは幽霊じゃない。まだ生きている。
でも、サトシさんの言った言葉が胸に引っかかっていた。
--魂を喰い殺すって……。
はぁ、と盛大なため息が聞こえてきてふっと星さんのことを思い出す。
そう言えばさっきサトシさんに首締められてたっけ。仲の良い二人がじゃれ合ってる感じだったから、あまり心配はしなかったけれど。
「大丈夫……?」
「本当に、話していいのかよ?」
話が噛み合わない。星さんはまだサトシさんだと思っているのか、投げだした両足に背を丸めて、頭を抱えている。
さっき、サトシさんは星さんの耳元で何かを言ったのだろうか。
星さんはやがて決心したように胡座をかいて座り直すと、わたしを見上げて言った。
「今サトシの中、燿子ちゃん? これから大事な話するから座ってよ」
言われた通り、本の山を避けて床に座る。
「前にも同じようなことがあったって言ったろ? その時のこと話すよ。元に戻る手がかりになるかもしれないし、それに」
星さんはそこで一旦言葉を区切る。
まだ少しだけ話すことを迷っているのか、重いため息をひとつ吐き出す。
「これは燿子ちゃんを信じて言うけど、サトシの体はサトシのものだ。絶対に自死はしないって約束して欲しい」
自死って……。
「そ、そんなことするわけない!」
思わず大きな声で返した。
星さんの目はそれでも安心できないというように、ぎゅっと眉根を寄せている。
「死んだら元に戻れるとしても?」
予想外の言葉に、わたしはとっさに何も言い返せなかった。
死んだら元に戻れる? それって、サトシさんを殺せばわたしは元に戻れるってこと?
「前の奴はそれをやろうとした。それ以外に元に戻る方法が見つからなかったから」
「そんな……」
「それでもサトシはこの方法を燿子ちゃんに伝えておくべきだって言ったんだ。けど、それはサトシを殺してもいいってことじゃない。分かるよな?」
その時わたしの頭の中に浮かんだのは、あの転落事故の瞬間だった。
実際には転落事故は起きてなくて、わたしの体は誰かに体当たりされたショックで心臓が止まったみたいだった。
でも、本当のわたしは星さんの言う並行世界にいて、あの瞬間、やっぱり三階から落ちて下にいたサトシさんを巻き込んでいたのかもしれない。
サトシさんを呼ぶ声が耳に残っている。
サトシさんはあっちの世界で無事だろうか。
わたしが戻った世界で、結局わたしはサトシさんを殺してしまっていたのだとしたら。
そんな考えが頭の中をぐるぐる回る。
分からないことだらけだ。それがこんなにも苦しくもどかしいものだと知らなかった。
わたしは誰かを助けることができるのだろうか。自分自身か、サトシさんのどちらかを。
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