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叶夢_1
その夜、わたしと星さんはポツリポツリと互いのことを話しながら、わたしに体当たりしてきた男性の似顔絵を作った。
気が付けば夜中の十二時を過ぎていた。
「遅くまで付き合わせてすみません。星さん、最後にひとつ聞いてもいいですか?」
「何?」
「サトシさんの明日の、明日っていうかもう今日だけど、お仕事の予定とかって分かります? サトシさんに直接聞けたらいいんだけど」
「ああ、今日は日曜だから休みだと思うけど。燿子ちゃんはまず警察に行かないとな」
「警察……」
「店に言っても探してくれないと思う。もちろん俺らが頼んだところで防犯カメラの映像なんか見せてくれないだろうし。警察もあてにはならないけど、念の為目撃情報として通報しとこう」
出来上がった似顔絵がプリンターから出てくる音が、深夜の室内に響く。
本当に星さんとサトシさんがいてくれて良かった。わたし一人では何一つできなかっただろう。
「今夜さ、一人でいるのが嫌だったら一緒にいるけど」
鼻の頭をポリポリと掻きながら、立てた膝の間に顔を埋める星さんは何だか仔犬のようで、まるでわたしより星さんの方が一人になりたくないみたいに見えた。
「星さんのお仕事は大丈夫なんですか?」
「おう。気ままな自営業だからな! そうだ、コンビニ行かね? 何か小腹が空いた」
そう言って勢いよく立ち上がる。近くに積んであった本がバサリと音を立てて崩れた。
星さんの後に続いてアパートを出ようとした時、ポケットの中で携帯電話が震えているのに気付いた。
取り出して液晶の表示を見ると、宮前 叶夢と表示されている。
うわ、名前なんて読むのか分からない。
どうしようと思っていると、勝手に手が動いて通話ボタンをタップした。
自分の意思でなく手が動く。なんだか気持ち悪い。でもこれはきっとサトシさんの意思だ。
わたしは恐る恐る携帯を耳に当てた。
「もしもし……」
そこまで言ってから、サトシさんの苗字は何だったっけと思う。
「……先生、助けて」
小さな子どもの声だった。
「どうしよう、子どもが助けてって言ってる」
玄関を出て行こうとしていた星さんの背中のシャツを思わず掴んで引き止めた。
くるりと振り返った星さんはわたしの手から携帯を取り、電話の向こうに問いかけた。
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