サトシの部屋_2

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「何時?」 もの凄く眠そうな星さんの問いかけに、慌てて壁の時計を見て答える。 「6時前です」 「まだ早いじゃん。燿子ちゃんももう少し寝よ」 星さんはまたごろんと寝返りを打つ。その弾みでわたしがかぶっていた布団も持っていかれてしまった。 あろう事か、昨日初めて会った人と一つの布団で寝ていたようだ。 その事実に一気に目が覚めた。 傍目には男性二人だが、中身は男女というこの状況で、慌てるわたしを気にも止めず、星さんはまた寝息をたてている。 そう言えば、さっきわたしを呼んでいたのは誰だったんだろう。 ベッドの方を見れば叶夢君はまだ眠っている。叶夢君が燿子とわたしの名前を呼ぶはずもないのだけれど。 それに、昨日は気付かなかったけれど、サトシさんの名前は免許証を見るまでどんな漢字を書くのか分からなかった。それなのに、星さんの名前は何故かわたしの中でずっと星さんだ。 星と言う字をあまり「じょう」とは読まないはずなのに。 考えてみてもさっぱり分からない。もしかしたら違う字かもしれない。 とりあえず起きてシャワーを浴びて、朝ごはんを作ろう。 気合いを入れ直して立ち上がったものの、昨夜のトイレを思い出す。 そうだ、そうだった。 こんな時に改めて自分の体でないことの不便さを思い知る。 サトシさんと入れ替わるまでシャワーはできそうにない。 とりあえず顔を洗ってみたものの、歯を磨こうとして歯ブラシを前にまた考えてしまう。 体はサトシさんのものなのだから、サトシさんがいつも使っていたと思われる歯ブラシを使ってもいいはずだけれど、何となくそれはしたくない。 しばらく悶々としたものの、諦めてコンビニに行くことにした。 ついでに叶夢君の分の歯ブラシと、朝ごはんの材料も買ってこよう。 しわくちゃになったTシャツだけ、目をつぶって着替えた。 コンビニから戻っても、星さんと叶夢君はまだ寝ていたので、わたしはコーヒーを飲みながら、昨日星さんが描いてくれた似顔絵を眺めた。 一瞬のことだったし、はっきりと覚えているわけではなかったけれど、限りなく記憶の中の印象に近い。 星さんの絵の上手さに改めて感動した。 星さんとサトシさんがArk onとして描くweb漫画『リピート』は、一人の青年が自分の居場所を見つけるために旅をする物語だ。 主人公の名前は紫雲(しうん)。彼には並行世界を行き来する不思議な力がある。 子どもの頃、その力を使って遊んでいた紫雲はもともと自分のいた世界がどれか分からなくなる。 本当の自分の家族を探し求めて旅をする紫雲だけれど、その世界にいる別の自分に会った途端、また別の世界へ飛ばされてしまうのだ。 紫雲は旅の途中いろんな人と出会い、助けられながら強く逞しく優しい青年に成長していく。 やがて紫雲は並行世界の真実に気付く。 そんなストーリーだ。
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