小学校_1

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ピコピコと列からはみ出す子どもたちを、最初の方こそ一人一人注意していたけれど、途中でキリがないことに気付いた。 いちいち列を整えていたのでは朝礼に間に合わない。 どうにか体育館に辿りつき、長い校長先生のお話や、保健の先生からの健康管理に関するお話などを聞いたあと、校歌を歌って解散。 一時間目が始まるまでに、人数分のプリントをコピーする。 サトシさんがUSBメモリに用意しておいてくれた算数のプリントで、一時間目を何とか乗り切った。 二時間目は国語。ひたすら教科書を生徒に朗読してもらって、漢字の小テストで乗り切る。 そして三、四時間目は体育館での図画工作。 1年生から3年生までが集まって、ペットボトルの蓋を使って、体育館に水族館を描くという特別授業だった。 「来島先生、写真撮影お願いしますね」 そう言って渡されたデジタルカメラを手に、体育館の中を歩き回る。 見たこともないほどの大量のペットボトルの蓋が、体育館の床一面に広げられている。 子どもたちは、各々に持ってきたカゴや袋に蓋を集め床に並べていく。 何人かで巨大なクジラを作る子や、ゲームのキャラクターみたいな巨大イカを作る子、一人で黙々と小さな魚を作る子。 それぞれに熱中しながら体育館を水族館に変えていく。 歩き回っては写真を撮るわたしに、笑顔とピースサインが向けられたり、うっかり並べてあったキャップを蹴飛ばして怒られたり。 この時間の子どもたちはみんな楽しそうで、見ているこっちまで楽しくなった。 途中何度か、叶夢君を見つけてはその様子を伺ったが、作業に集中できているようだった。 このペットボトルの蓋はリサイクル資源として売却された収益が、世界の子どもたちの予防接種のワクチンに使われるらしい。 最後にみんなで体育館を泳ぐように寝転がってポーズをとってもらい、2階から写真を撮った。 体育館いっぱいに描かれた水族館は、崩してしまうのが勿体なく思えた。 一斉に片付けが始まると、子どもたちは勢いよくキャップを掻き集める。 大きな波にさらわれるように、体育館の床にいた魚たちはあっという間にいなくなってしまった。 その様子を見ていると、今日この場所にほんの一瞬存在した絵を、本当ならわたしは見ることがなかったのだと思えて、なんだか胸が熱くなった。 ただのペットボトルの蓋が、たくさん集まって大きな絵を描き出す。これだけの数を集めた時間と労力も、これを使って絵を描こうと考えたアイデアも、全てが揃って初めてできたことだった。いろんな力が集まって作り上げたその一瞬に、奇跡的に立ち会えたことにちょっと感動してしまった。 星さんにも見せてあげたかったな。 今日中にサトシさんの体から出て、自分の体に戻らなくてはいけないということなど忘れたようにわたしは落ち着いていた。 たとえどんな結果になったとしても、サトシさんと星さんに感謝している。 子どもたちからエネルギーを分けてもらったせいか、何だか全てがうまくいくような気がしていた。 あっという間に午前中が終わり、次は給食の時間だった。 星さんのお母さんからお弁当をもらったものの、先生も給食を一緒に食べるらしい。 どちらにしても使われているのは星さんちの野菜だ。
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