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舞い上がっていたわたしは、一転罪悪感に苛まれ始めた。
その時、異変は始まった。
「先生、あおいちゃんがお腹が痛いって……」
「なんか気持ち悪い……」
「先生! ヒロトがゲロ吐いた!」
女の子たちの悲鳴。ドサリと音がした方を見れば、地面に倒れている子がいた。
そして次々に不調を訴える子どもたち。
いきなりの事態に、わたしは何をしていいか分からず右往左往するばかりだった。
「だ、誰か保健の先生を……」
保健室に向かって走ったのは叶夢君だった。
近くで地面に嘔吐し続ける子の背中を擦りながら周りを見渡せば、半数の子が倒れたりうずくまっている。
一体何が起こってるのだろう。
真っ先に思い浮かんだのは三十分程前に食べた給食だ。
わたしも同じ物を食べている。
そう考えた時、ふと胃のあたりがおかしいような気がした。
「先生、あおいちゃんが!」
女の子に腕を引かれて見れば、あおいちゃんがビクンビクンと体を震わせている。
もしかして痙攣?
今すぐ救急車を呼ばなくては。学校内でどうにかできるような状況じゃない。頭ではそう考えているのに、わたしの足が歩き方を忘れたみたいに動かない。
泣き出す子どもたち。
空からもポタリと雨の雫が落ちてきた。
地響きのような遠雷の音に、辺りが急速に影に包まれて行く。
――生死の理を犯して存在するわたしに、神様が怒っている
そんな考えが、降り出した雨と共に心の中へ染み込んできた。
けど、今はそんなことを考えている場合じゃない。
わたしはあおいちゃんに駆け寄って、その体を
抱き上げた。
「動ける子たちは他の先生を呼びに行って!」
そう指示して、一番近い校舎の入口へ走る。
出てきていた先生にあおいちゃんを託し、救急車を呼んでくれるよう伝えて、すぐさま運動場へ引き返す。
倒れている子を何度か往復して、校舎ではなく体育館へ運んだ。
保健室のベッドでは足りない。
体育の授業に使うマットの上に子どもたちを寝かせていく。
次第に集まり始めた先生方に状況を説明し、他のクラスの様子を調べてもらう。
もし、給食が原因だったとしたら――。
絶対にないと思いながらも、星さんの顔が脳裏を掠める。
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