病院_3

1/13
前へ
/101ページ
次へ

病院_3

この人たちはいったい何をしようとしているのだろう。 あまりの恐ろしさに、何をどうしていいのか分からない。 わたしは叶夢君にぴったりとくっついて、車の行く先を見守った。 やがて見覚えのある駐車場に車が停る。叶夢君のお母さんと燿子(わたし)が入院している病院だ。 叶夢君が連れ出され、引き摺られるようにして連れていかれる。 叶夢君に、何をさせようとしているの? 叶夢君の背中にぴたりと張り付いたわたしの姿に目を向ける人はいない。 それをいいことに、わたしは堂々と叶夢君について行く。 エレベーターに乗って向かった先は叶夢君のお母さんの病室だった。 病室には叶夢君のお母さんが一人だけだった。 ベッドの背中の部分を起こしているところを見ると、回復してきているのだろう。 少しほっとして叶夢君の頭を撫でようとしたら、腕がスルッとすり抜けた。 「ああ、この間は悪かったな。ちょっと量がいき過ぎちまったみたいだな」 男は言葉では謝っているように聞こえるが、その下卑た笑いには誠意の欠片も見えない。 「何しにきたの? もうあなたとは関わりたくないの。帰って」 叶夢君のお母さんは男を睨む。 「ひでぇな。この間のアレ。いくらすると思ってんだ? まぁアレは初回サービスだ。そんなことより今日は頼みがあって来たんだ」 男は気にとめる風もなく、ニヤニヤと笑って叶夢君のお母さんに話しかける。 この人が叶夢君の言っていたおじさん、叶夢君のお母さんに麻薬を持ってきた人物に違いない。 男は叶夢君の襟首を掴んでどんと前に突き出す。 「叶夢!」 お母さんがベッドから身を乗り出して叶夢君に両腕を伸ばした。 叶夢君がお母さんに駆け寄ろうとした瞬間、男が叶夢君を持ち上げる。 叶夢君が足をばたつかせても、男は叶夢君をお母さんに渡すつもりは無いようだ。 「子どもが心配だよなぁ。母親が薬中なんて、なぁ?」 男はわざとらしく叶夢君の頭を撫でる。 「俺の頼み聞いてくれたら、悪いようにはしないぜ」 後から来ていた運転席の男が扉の前で見張っているのか、そうしている間も誰も部屋に入ってこない。 「ちょっと騒いでくれたらいいんだ。今日学校で大変なことがあったんだよなぁ、叶夢?」 叶夢君がぴくんと身を強ばらせた。 「学校給食に大量の農薬が混入したんだ。有機栽培なんて嘘っぱちだな、ありゃ」 男は肩を揺すって笑う。 「明野農園を潰す。協力、してくれるよな?」 低く抑えた男の声が嘘や冗談でないことを物語っている。大変だ。大変なことになる。 星さんが、星さんの御家族がみんなで作ってる野菜が、農園が……! 星さんに早く知らせないと。 でもどうやって? 星さんには魂の状態のわたしは見えない。サトシさんの体に一度戻るしか……。 そこでわたしは閃いた。 そうだ。 燿子だ。 燿子の体を使えれば……。
/101ページ

最初のコメントを投稿しよう!

76人が本棚に入れています
本棚に追加