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香織さんの言葉がわたしの気持ちを引き上げる。180度見方がひっくり返ったような気がした。
香織さんに促されて、二人で並んでベッドに腰を下ろした。
子どもみたいに大泣きしていたことが恥ずかしくて、それでいて香織さんに話を聞いて欲しいような気もした。
「サトシさんの体が居心地良くて、だから、有り得ない状況でも落ち着いていられたし、すごく前向きでいられたんです。
自分の体に戻った途端に泣いてばっかりで……」
「サトシ、体だけは鍛えてあるしね。感情が肉体に影響受けるっていうのは本当なのかしらね」
「不思議です。あんなに早く走れて、たくさん食べることができて」
「サトシのこと、気になる?」
「えっ?!」
香織さんは真っ直ぐな眼差しでわたしを見ていた。香織さんはどう思ってるんだろう、サトシさんのこと。
その時、複数の救急車のサイレンが聞こえてきた。
わたしははっとなって窓に駆け寄った。
もしかして、子どもたちが運ばれてきたのかもしれない。
学校で起きたことを香織さんにも話すべきだろうか。
悩んでいる間に、香織さんにも呼び出しがかかったのか、ポケットからPHSを取り出して少し話した後、
「ごめんね、行かなくちゃ」
そう言って病室を出て行く。
思わずその背中を呼び止めていた。
「香織さん」
余計なお世話かもしれない。それでも言っておきたかった。
「ありがとうございます。それと、サトシさんと香織さん、お似合いだと思います」
わたしの存在が香織さんを不安にさせてしまったかもしれない。そう思うと、それだけでは足りない気がした。でも、それ以上言葉が浮かばない。
ふわりとした笑顔を残して、香織さんは部屋を出て行った。
その背中を見送っていると、入れ違いに星さんが飛び込んできた。
「あ、……星さん」
「燿、……子ちゃん?」
「はい」
香織さんのおかげで落ち着きを取り戻したわたしは、星さんの目を見て大きく頷いた。
初めまして、なんて挨拶をしている時間はない。
「星さん、誰かが明野農園を潰そうとしてます。サトシさんの小学校で給食に農薬が入れられて、明日には記事が出るって」
「ま、待って燿子ちゃん。それ、どこで聞いた?」
「叶夢君を連れ去った犯人からです。男性二人と女性が一人。叶夢君のお母さんに騒いで欲しいって、二人とも連れていかれたみたいなんです」
星さんが目を見開いて言葉を失っている。
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