病院_3

5/13
前へ
/101ページ
次へ
香織さんの言葉がわたしの気持ちを引き上げる。180度見方がひっくり返ったような気がした。 香織さんに促されて、二人で並んでベッドに腰を下ろした。 子どもみたいに大泣きしていたことが恥ずかしくて、それでいて香織さんに話を聞いて欲しいような気もした。 「サトシさんの体が居心地良くて、だから、有り得ない状況でも落ち着いていられたし、すごく前向きでいられたんです。 自分の体に戻った途端に泣いてばっかりで……」 「サトシ、体だけは鍛えてあるしね。感情が肉体に影響受けるっていうのは本当なのかしらね」 「不思議です。あんなに早く走れて、たくさん食べることができて」 「サトシのこと、気になる?」 「えっ?!」 香織さんは真っ直ぐな眼差しでわたしを見ていた。香織さんはどう思ってるんだろう、サトシさんのこと。 その時、複数の救急車のサイレンが聞こえてきた。 わたしははっとなって窓に駆け寄った。 もしかして、子どもたちが運ばれてきたのかもしれない。 学校で起きたことを香織さんにも話すべきだろうか。 悩んでいる間に、香織さんにも呼び出しがかかったのか、ポケットからPHSを取り出して少し話した後、 「ごめんね、行かなくちゃ」 そう言って病室を出て行く。 思わずその背中を呼び止めていた。 「香織さん」 余計なお世話かもしれない。それでも言っておきたかった。 「ありがとうございます。それと、サトシさんと香織さん、お似合いだと思います」 わたしの存在が香織さんを不安にさせてしまったかもしれない。そう思うと、それだけでは足りない気がした。でも、それ以上言葉が浮かばない。 ふわりとした笑顔を残して、香織さんは部屋を出て行った。 その背中を見送っていると、入れ違いに星さんが飛び込んできた。 「あ、……星さん」 「燿、……子ちゃん?」 「はい」 香織さんのおかげで落ち着きを取り戻したわたしは、星さんの目を見て大きく頷いた。 初めまして、なんて挨拶をしている時間はない。 「星さん、誰かが明野農園を潰そうとしてます。サトシさんの小学校で給食に農薬が入れられて、明日には記事が出るって」 「ま、待って燿子ちゃん。それ、どこで聞いた?」 「叶夢君を連れ去った犯人からです。男性二人と女性が一人。叶夢君のお母さんに騒いで欲しいって、二人とも連れていかれたみたいなんです」 星さんが目を見開いて言葉を失っている。
/101ページ

最初のコメントを投稿しよう!

76人が本棚に入れています
本棚に追加