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その後すぐに、またわたしはサトシさんの体に戻っていた。
あの時確かにサトシさんはわたしに「退いてろ」と言った。
そしてわたしは体の外へ放り出され、頭上からその後の様子を見ていたのだ。
サトシさんはわたしが(この場合取り憑いているというのだろうか)そういう状態にあることを認識していることになる。
わたしはこうしていてもサトシさんの意識を感じない。
助けてくれたことにお礼を言いたいけれど、サトシさんと会話する方法はないだろうか。
それに、一度体から出たのに何故わたしは自分の体ではなく、またサトシさんの体に入ってしまったのだろう。
サトシさんなら何か分かるだろうか。
悶々と考えていると、不意に後ろから肩を叩かれ、また魂が飛び出るほど驚いた。
「さっきから呼んでるのに、気付かなかったのかよ。ホント、今日のサトシは変だなぁ」
ショッピングセンターでサトシさんと一緒にいたお友達の星さんだった。
「なんでここに・・・・・・?」
「車。俺に鍵渡したのって迎えに来いってことだったんだろ?」
ああそうか。
サトシさんは、あの時救急車に一緒にわたしが乗って行くことを予測していたのだ。
何となく、あの時の行動といい、サトシさんが凄い人に思える。
わたしなら、そんなことまで気が回らないだろうし、目の前で人が倒れていても何もできないかもしれない。
あの時、サトシさんがいてくれて良かった。
もしかしたら、わたしは自分を助けてくれる人を探して体を飛び出したのかもしれない。都合良くそんな風に思ったりした。
「そろそろ帰るだろ?」
星さんがエレベーターに向かって歩きだそうとする。
「ちょっと待って」
わたしは母の様子をもう一度確かめようと病室を覗いてみた。
わたしが病院に運ばれてから何度も父に電話していたはずなのに、まだ連絡がつかないようだった。
いつもそうだ。肝心な時に父はいない。
わたしが台風で家に帰れなくなった時も、おばあちゃんが転んで骨折した時も、母がめまいで寝込んだ時も、父は別の女性の所にいた。
もしわたしが死んでしまったら、母はどうなるのだろう。
俯いた小さな背中を残していくのが心苦しくて、お母さんと呼べないことが寂しくて、涙が込み上げてくるのを必死に堪えた。
サトシさんの体をいつまでも使わせてもらうわけにもいかない。
早く元に戻る方法を見つけなくちゃ。
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