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「燿子……、どちら様?」
部屋の外にいた母に、今の話が聞こえてしまったかもしれない。
心配そうにわたしの隣に近寄ってきた母が、星さんに目を向ける。
この三日間のことを母に説明している時間はない。それに言ったところで信じられないだろう。もしわたしが母の立場なら、夢を見ていたか、詐欺にでもあったんじゃないかと思うはずだ。
「お母さん、あのね、上手く説明できないけど、わたし行かなくちゃ……」
「どこに行くの? さっきまで意識が無かったのに、急にどうしちゃったの?」
母は今にも泣きだしそうな顔でわたしを見ている。すごく心配をかけたことは分かっているつもりなのに、わたしは今すぐに学校に駆け戻りたい気持ちでいっぱいだった。
焦る気持ちがどうしても苛立ちに変わってしまいそうになる。それが母に対する甘えだと分かっていても、今はどうしようもなかった。
「あの、初めまして。明野 星と言います」
星さんの少し緊張した感じの声がして、母とわたしが同時に星さんを振り返る。
「あなた、あの時燿子を助けてくださった方と一緒にいた……」
お母さん、星さんを覚えていたんだ……。
「はい。燿子さんとは以前から知り合いで」
星さんがわたしに同意を求めるようにこっちを見たので、慌てて頷いた。
「燿子ちゃん、一旦病室に戻って、先生の診察を受けた方がいい」
星さんだってわたしの話を聞いて、いても立っても居られないはずなのに、そんなふうに言って先に立って病室を出ていく。
星さんの言葉に母は少し安心したようにわたしの背中を擦りながら歩く。
けど今は、どうやって叶夢君を探し出すか、星さん家の農園を守るか、そのことで頭がいっぱいだった。自分のことも母のことも考えている余裕はない。
母を安心させたい気持ちがないわけじゃない。だけどそれは全てが解決してからだ。
「お母さん、友達が今危険なの。わたしやっぱり行かなきゃ」
病室の一歩手前で足が止まる。
「体は? もう平気なの? 無理してない?」
母の方がきっと無理してる。それでも必死にわたしを理解しようとしてくれているのが分かる。
いつもそうだったから。
「大丈夫。たっぷり寝たから! それに、星さんが一緒だから大丈夫」
星さんが驚いたように少し目を見開いた。迷惑だったかな。
思わず言ってしまった言葉に顔がひきつりそうになったけど、星さんはにっと笑って母に向き直った。
「燿子ちゃん、意外と頑固っすよね。俺が面倒見ますんで、ちょっとだけお借りしていいですか? すいません、今、どうしても燿子ちゃんが必要なんです」
今度はわたしが目を見開く番だった。
星さんの言葉がわたしに力をくれる。
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