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「あ、そうだ。燿子ちゃんのお母さん、携帯ってスマホですか?」
星さん、突然何を言い出すんだろう。星さんはわたしにも携帯電話を出すように言って、両手に持ったそれを器用に操作する。
「燿子ちゃんのスマホのGPS機能をオンにしておけば、このアプリで……ほら、燿子ちゃんが今どこにいるか確認できる」
母に画面が見えるように身を寄せて、使い方をレクチャーしている。
凄い。母が安心できるように考えてくれたんだ。しかも、誰に対しても気取らず優しい空気で接することのできる星さんをわたしは尊敬せずにはいられない。
わたしも星さんのようになりたいと思う。
母に携帯電話を返すと、星さんはピシッと背筋を伸ばして言った。
「夕方には必ず燿子ちゃんをここに連れて帰ります」
母は携帯電話と星さんを見比べながらしばらく考えこんでいた。
それから小さなため息を吐いて、わたしの手を握った。
「検査の結果ではどこにも異常はないって。目が覚めないのは、精神的なものかもしれないって先生は仰ってたけど……。今の耀ちゃんの顔を見たら心配要らなさそうね」
わたしにそう言って、星さんに向き直る。
「燿子はまだ入院中なんです。絶対に無理はさせないって約束して」
「もちろんです。燿子ちゃんも、少しでも変だなって思ったら俺に隠したりせず正直に言って」
頷いたわたしの頭に、ぽんと大きな手が乗せられた。
三日間シャンプーしてないのに、そんなことを思って首を竦めるわたしに、行こうと星さんが手を差し出す。
「お母さん、後でちゃんと話すから」
母が笑顔で頷くのを見て、わたしは星さんに歩み寄る。
手を握るのは少し恥ずかしい。
そんなわたしの気持ちなどお構い無しに、星さんの手がわたしの手を迎えにきた。
「先ずはサトシと合流しよう」
そうだ。今は明野農園を守ることに専念しなきゃ。
駐車場に向かう途中、星さんの携帯電話が鳴った。
何事かを話していた星さんの表情が曇る。
通話を終えると、星さんは踵を返す。
「学校からだった。サトシがこの病院に救急搬送されたって」
「えっ……」
「サトシは身寄りがなくてさ、緊急連絡先が俺になってるんだ」
「サトシさんの容態は……」
「まだ分からない。燿子ちゃん、給食に農薬が混入されたって言ったよね?」
「う、うん。叶夢君をここまで連れて来る途中の車内で女の人が、「明日には明野農園の野菜から大量の農薬が検出されたっていう記事が出る」って」
「うちを狙い撃ちか……」
星さん家が誰かに恨まれてるってこと?
「その女の人ってどんな人だった?」
歩きながらわたしは覚えている限りの情報を星さんに伝えた。
星さんの顔が次第に強ばっていく。もしかして心当たりがあるのだろうか。
「その女性が狙ってるのはもしかしたら俺とサトシ、香織、それに燿子ちゃんの四人かもしれない」
「え……」
星さんの言葉にこれまでの出来事が走馬灯のように流れた。
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