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「三日前、ショッピングモールで男の人にぶつかって、この病院に運ばれました。その時助けてくれたのがサトシさんと星さんで……。ぶつかってきた男性は昨日この病院に来て暴れた人でした」
病院の一角にコンビニとカフェが併設されていて、わたしはそのカフェで刑事さん達に事情を話すことになった。
「もしかしてショッピングモールでの麻薬取引を目撃して通報してきたのは君?」
浅香刑事はメモを片手に、声を抑えがちに聞いてくる。
「違います。わたしは何も見てません。でもその人はもしかしたらわたしが通報したと思って、逆恨みしたのかも……」
「確かに通報者は匿名だったが、もう少し年配の女性の声だったな」
松崎刑事は顎に手を当てて、その声を思い出しているのかしばらく目を閉じていた。
「その男については昨日警察で身柄を確保して拘留中だから安心して」
わたしがずっとびくびくしているせいか、浅香刑事はそう言って笑顔を作る。
でももちろん、わたしが恐れているのはその人のことなんかじゃない。
誰かが星さんを、明野農園を陥れようとしている。
わたしや香織さんが危ない目にあったのは偶然かもしれない。
でも星さんの件に関しては、わたしははっきりと犯人の言葉を聞いた。
農薬が使われた場所がサトシさんの勤める学校だったことは、偶然かどうかまだ分からない。
星さんの言うようにわたし達四人を狙ったのだとして、犯人が尚也さんのお母さんだとするならば、動機は尚也さんの死に対する復讐?
でも直接の原因はバイクの前に飛び出したわたしにある。
星さんの家族や、農園で働く人達、野菜を楽しみにしている人達、サトシさんが教えている子どもたちには関係のないことだ。
「……君、君、大丈夫か?」
考えこんでいたわたしを、浅香刑事が心配そうな顔で覗き込んでいた。
「あ、すみません……」
「で、宮前叶夢君のことは星から聞いただけ? それとも直接会って話したのかな?」
「星さんから聞いて、病室が近かったので様子を見に行きました……」
嘘じゃない。言葉を選びながら、二人が危険な状態かもしれないと伝えるんだ。
わたしは自分にそう言い聞かせながら、浅香刑事の質問に答える。
そんなわたしを松崎刑事がじっと観察しているのが分かる。
「男の人が叶夢君を連れて病室に来ていました。叶夢君のお母さんを脅してるみたいでした。それに明野農園を潰すって……」
「その人を見たんだね?」
わたしは大きく頷いた
さらに詳しい話を聞きたいと言われ、わたしは警察署へ同行を求められた。
この時、刑事さん達に上手く伝えられたとわたしは手応えを感じていた。そして疑いもせずに二人についていったのだ。
まさか、こんなことになるとは思いもせずに。
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