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小学校_2
警察署に向かう途中、刑事さんたちに応援要請が入った。白黒のツートンのパトカーではなく、白い普通車でわたしたちが向かったのは小学校だった。
ゆっくりと通学路を進む車の中から見ると、玄関の辺りに人だかりができている。
校庭のフェンスに寄せて車が止まると、わたしはそこから飛び出した。一瞬、叶夢君のお母さんらしき人が見えた気がしたのだ。
集まった人たちの中に入っていくと、農薬とか農園という単語が聞こえてくる。
玄関で校長先生や他の先生方が、押し寄せる人たちに落ち着いてくださいと呼びかけている。
「給食の野菜が原因て本当なんですか?」
「無農薬野菜のはずですよね?」
早くもそんな情報が流れていた。
保護者の人たちばかりだと思っていたら、中にレコーダーのような物を掲げている人がいる。
もし、新聞や雑誌の記者の人だったら……、そう考えるとじっと見ていることができなかった。
「農園のせいじゃありません! 誰かが給食に農薬を混入させたんです」
わたしの叫び声に一瞬辺りが静まり、次の瞬間には先生に向いていた矛先が一斉にわたしの方に向いた。
「あぁ、やってくれる……」
後ろにいた松崎刑事の呆れたような声。そして目の前に現れた大きな背中。
「皆さん落ち着いてください。南署の者です。これから捜査の後、詳しいことは学校を通じてお知らせします。捜査の妨げになりますので一旦お引き取りください」
松崎刑事の落ち着いた声に徐々にざわつきは収まっていくものの、その場を立ち去る人はいない。
松崎刑事が浅香刑事に何か合図すると、数人の警官が現れて黄色いテープを引き始めた。
「今から校内は立ち入り禁止とします。すみやかにお引き取りください」
玄関の外へと押し出された人々が渋々帰り始めると、松崎刑事はわたしの頭にゲンコツを降らせた。
「保護者を混乱させるような事を勝手に言うんじゃない」
「すみません……」
松崎刑事の言う通りだ。
でも明野農園のせいにされるのをみすみす黙っているなんてできない。
「しかし、思ったより情報が出回るのが早いな」
ボソリと呟かれたその言葉に、わたしははっとなって帰っていく保護者の中に叶夢君のお母さんの姿を探した。
けれど見つけることはできなかった。
黄色いテープに書かれたKEEP_OUTの文字がやけに生々しく感じる。
子どもたちの声が聞こえない学校で、額を突き合わせた大人たちの会話をどこか遠くに聞いていた。
ふと窓の外に見えた影を咄嗟に追いかけた。呼び止めた背中が小さく震える。
「叶夢君、……だよね?」
振り返ったその手には小さな半透明の小瓶が握られていた。
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