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「叶夢君、無事で良かった。心配してたんだよ。あ、わたしはサトシさん、……来島先生の友達でね、先生の代わりに……」
「……知ってる」
叶夢君はボソリとそう呟いた。
「え?」
「お姉さん、先生の『使い魔』でしょ?」
「……!」
使い魔って……。わたし魔物? 思いもかけない言葉が返ってきて面食らう。
「先生の家で見た。さっき先生が走って追いかけてきた時も。お姉さんが先生の体の中から抜け出すの」
「……それって、叶夢君は幽霊とかそういうのが見えるってこと?」
叶夢君はこくんと頷いた。漫画とかアニメにあるのかな、使い魔。ここで否定しない方がいいのかな。子どもと話すのって難しいな。
「そっか……、そうなんだ。えっと、お姉さんのこと、怖くない、の?」
無言で左右に首を振る叶夢君の瞳に、涙の粒が盛り上がる。やっぱり怖いんじゃ……。
「お姉さんは、サトシ先生に頼まれて、叶夢君を助けにきたんだよ」
叶夢君を安心させたくて、わたしはいっそ使い魔でも何でも、叶夢君が思っている存在になることにした。でも一体、使い魔ってどんなことするんだろう。
「叶夢君はお腹痛くなったりしてない? 大丈夫?」
わたしは叶夢君と目線を合わせるように少し屈んで問いかけた。
叶夢君が頷くのを見てほっと胸をなで下ろす。
「お母さんは? 一緒にいるのかと思ってたよ」
「…………」
「もしね、お姉さんが間違ってたらごめん。さっきいっしょにいたおじさん達、叶夢君や叶夢君のお母さんに酷いことしてるんじゃ……?」
「…………」
黙り込んでしまった叶夢君にどうしていいか分からず、何かもっと当たり障りない話題はないかと必死に考えを巡らせた。
「あ、それ何持ってるの?」
ふと目に付いた叶夢君の手に握られた小瓶を指さして尋ねると、叶夢君の肩がピクリと震えた。
そして叶夢君はそれをわたしに差し出して言った。
「お姉さん、これ持ってて。……捨ててもいいから」
「これ、何?」
思わず受け取ったガラスの小瓶は薬の入れ物っぽい。でもラベルは付いておらず、半透明で中もよく見えない。
「絶対、誰にも渡さないで」
叶夢君はそう言うとくるりと背を向けて走り出した。
「待って、叶夢君!」
叶夢君を一人にしたくなくてわたしは慌てて追いかけようとした。
けれど、後ろからやってきた松崎刑事に呼び止められ、振り返った時にはもう叶夢君の姿は見えなくなっていた。
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