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「あんたたち、何やってんの?」
点滴を取替えにきた若い女性の看護師さんが、わたしと星さんを見て驚いている。わたしというか、サトシさんを見て、だけど。
「おお、香織か。またサトシが人命救助したんだ。若い子みたいだったけど、どんな様子?」
「詳しい検査結果はまだだけど、応急処置が早かったのが幸いね。・・・・・・今回は助かるといいわね」
何かを思い出したのか、『カオリ』と星さんが呼んだ看護師さんは一瞬表情を曇らせた。
「・・・・・・」
3人は友達のようだけれど、香織さんの意味深な言葉に何と返していいか分からず黙って頷く。
「もうすぐ消灯時間だからね」
香織さんは星さんと少し話すと、バイバイと手を振って病室に入って行った。
「ラーメン食って帰ろうぜ」
星さんはなかなか病室を離れないわたしの背中を押してエレベーターに乗り込む。
「大丈夫だって。今回は絶対助かるよ! あんなに熱心に救命講習受けてたし、ホント、教師より救命士の方が向いてるんじゃないのか?」
冗談ぽく言っているけれど、サトシさんを気遣っているのが分かる。
香織さんと星さんの言葉から、前にも同じようなことがあって、その時は誰かが命を落としたのかもしれないと感じた。
エレベーターで一階に降りると、コンビニがあるのが見えた。
母とごはんを食べる予定だった。今日の夜はパスタを食べようねと話していたのを思い出した。こんなことにならなければ今頃は二人でお腹いっぱいだねと言い合いながら家に向かっていただろう。
せめて母に何か食べ物を届けたかった。
でも自分の財布を取りに行くわけにもいかない。
サトシさん、後で必ず返すので少し貸してください。
心の中でそうお願いして、サトシさんのズボンのポケットからお財布を取り出す。
黒い薄いお財布には、数枚のお札とカード、免許証が入っていた。
人のお財布を勝手に見るというのはすごく罪悪感がある。
やっぱり勝手に借りるのは良くないかな。
立ち止まってお財布を握りしめているわたしを、星さんが怪訝そうに見ている。
「あ、あのさ。さっきのあのお母さん、多分何も食べてないと思うんだ。ちょっとコンビニで何か買っていってあげようと思うんだけど・・・・・・」
「おまえって奴は・・・・・・。いい人過ぎんだろ?」
星さんは呆れたように頭を掻きながらも、足はコンビニに向かっている。
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