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「おい、勝手に動き回るな。最近のガキは全く……」
口の悪い刑事さんは舌打ちしながらわたしを車の方へと促す。
「あの、犯人の車は見つかったんですか?」
叶夢君のことが気になるものの、松崎刑事の有無を言わさない態度に逆らえない。大股で歩くその後ろをついて行きながら、気になっていたことを尋ねてみた。
せめて先にあの人達を捕まえてくれれば、叶夢君は安全だと思える。
「車……? なんの事だ?」
チラリとわたしを見下ろすその顔はとぼけているのか、本当に知らないのか、表情が読めない。
「一昨日の夜、叶夢君の家の前に止まってた車です。星さんが刑事さんに写真渡したって。その車に乗ってた人達が怪しいんです。早く見つけないと」
「星のヤツ、どこまで情報握ってんだ」
松崎刑事のため息混じりの呟きに少し焦りが滲んだような気がした。
「さっき病院で星と話してたこと、今すぐ全部話して貰おうか」
松崎刑事の大きな手に肩を掴まれ、凶悪犯も真っ青な強面に震えそうになりながらこくこくと頷く。
「あの、その前に聞いてもいいですか。さっき集まってた人達の中に新聞記者の人とかいませんでしたか?」
「いたな。地方紙の記者が」
「星さんの農園のこと、書かれたりしませんよね?」
「確証がなければ実名までは出さないだろう。後で間違いだったでは済まないからな」
「農園の周りのパトロールを強化してもらうとかできませんか?」
「一応走らせてはいるよ。あいつも黙ってやられたりはしないさ」
松崎刑事は笑っているけれど、わたしは心配で胃が痛くなりそうだった。
「で、その怪しい人達について知ってることを話して貰おうか」
わたしは叶夢君を追いかけて車の中で聞いた話を、病院で聞いたことにして松崎刑事に話した。
ただ、尚也さんのお母さんのことについては話さなかった。まだそうと決まったわけではないし、わたしが勝手に喋っていい内容ではないと思ったからだ。
「明野農園を恨んでるやつが、農園を潰そうとして給食の野菜に農薬を混入させた。それを保護者を使って明野農園がやったと噂を流す。明日には記事が出て、星んとこは終わりってわけか。なるほどな。……で、それと、松本議員の関係は?」
松崎刑事からそう突っ込まれて、わたしは何と答えていいか分からなくなった。
「屋上での星さんの話、どこから聞いてたんですか?」
「愛人の子がどうとかって言ってたな。今回のことに関係してるのか?」
「……まだ、分かりません」
「そうか。なら、この件は忘れておとなしくしてた方が良さそうだな」
「それはどういう意味ですか?」
「忖度しろよ、ガキ」
っぬぁ!?
あまりの驚きに口が開いたまま塞がらない。
それって、それって、つまり、相手が政治家なら悪いことしてても捕まえないってこと?
「……信じられないっ」
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