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病院_1
サトシさんがどこの誰かは分からないけれど、花巻燿子のことは誰よりも知っている。
わたしは咄嗟に友人のフリをした。
そのまま病院へ付き添い、母の隣で検査結果を待っている。
医学的に今の状態が解明できるのなら、是非教えて欲しい。わたしがわたしの体に戻る方法を。
自分の体にこれといって好きなところなんかない。運動オンチのぽっちゃり体型。顔は地味で、極端な近視で、常に吹き出物に悩まされている。
花粉症は酷いし、偏頭痛持ちだし、自分の体に戻りたいと思うようなスペックは何一つ持っていないのに。
目の前の体が何故か愛おしくて、体から追い出されてしまったわたしは悲しくて、泣きたい気持ちでいっぱいだった。
母に名前を呼んでもらってる自分に嫉妬してしまいそうなほどだった。
戻る方法が分からなければ、どうすればいいんだろう。
このまま、このマッチョなサトシの体で生きていくんだろうか。
それとも、体が死んでしまったら、わたしも消えてなくなるのかな。
もう、母と話すことはできないのだろうか。
今、この現状を母に打ち明けようかと、さっきから何度も考えている。
でも、きっと信じられないだろう。
変な人だと思われて、近くに居られなくなったら困る。
それに、わたしはいったいどこに帰ればいいんだろう。
その時、ズボンのポケットでスマホが振動しているのに気付いた。
慌てて病室を出る。
ディスプレイには「あけのん」と表示されている。
自分のスマホじゃないんだから、あけのんが誰のことか分かるはずもない。
しばらくすると振動が止まった。
数秒後、メッセージが届いた。
『大丈夫か? 車どうする? 』
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