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自分が王様だと言い張る妖精 シルブプレ
今日も洋一郎之介は学級会での級長の態度が癪に障って帰りのホームルームの途中で教室から飛び出してしまいました。
「何だって奴らは上から物を見る言い方しかできないんだよ! サイテーだよ。誰が偉いとか偉くないとか、そんなの人間は皆同じなのに!」
家のドアを力任せに閉めるとそれに反応するよううに上から何かが落ちてきました。
「わあっ! ビックリした~」
その謎の物体はトカゲの様な胴体に人間の手足がつき、ブタの鼻を持った気持ちの悪い存在でした。しかし、ブタ鼻の下には立派なヒゲを蓄えていて、どこかしら高貴に見えなくもありませんでした。
謎の存在との出会いもすっかり慣れてしまった洋一郎之介はその存在が一目見て妖精だと分かりました。
「ねえ! 君は何の妖精? 名前は?」
「我が名はシルブプレ。王様である……」
シルブプレはカサカサと床を這いながら洋一郎之介に近寄ってきました。
「いや……王様じゃなくって何の妖精か聞いてるんだよ」
「我は王様なのである」
洋一郎之介は黙り込んでしまいました。全く会話が成立しません。そんな妖精は初めてでした。
「訳わかんない! 王様のわけないじゃん! もったいぶってないで何の妖精か教えてよ!」
「頭が高いぞよ。控えよろう……」
シルブプレはその後も「王様」と「頭が高い」の一点張りで全くお話になりませんでした。洋一郎之介は諦めてテーブルサッカーをしようと机の上のビー玉を手にした時、ビー玉が手からこぼれてテレビの下に転がってしまいました。テレビの前にはシルブプレが立ち(四つん這いですが)ふさがっています。
「ちょっと! 邪魔だよ! シルブプレ! どいてよ!」
しかしシルブプレは一向に動こうとしません。それどころか「我は王である」またそれです。
「も~、わかったわかった。王様! とにかくそこどいてよ!」
洋一郎之介が投げやりにシルブプレに呼びかけると、一瞬シルブプレはとても嬉しそうな表情を見せたのです。
「も~、どこ行っちゃったんだろう……。全然見えないよ~」
そんなシルブプレにはお構い無しに洋一郎之介は頭を低くしてテレビ台の下を覗き込みました。その瞬間です。洋一郎之介の頭はシルブプレよりも低くなったのです。
「苦しうない……。面をあげ……い……」
そう言ってニッコリと微笑みながらシルブプレは消えていきました。
「シ……シルブプレ! 待って! 俺、君と何も話してないよ!」
その時、全然見えてなかったビー玉がテレビ台の下からコロコロと転がり出てきました。
「シルブプレ……。君も寂しかっただけなのかな……?」
洋一郎之介が落としたビー玉より少しだけ綺麗になった玉が一つ床の上で円を描くように回った後、ピタリと止まりました。
シルブプレは結局、自分が王様だと認められたいだけの妖精だった様ですね。もしかするとどこかの国の王様かもしれませんが……。
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