プロローグ

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プロローグ

「別れてほしいの」  それは突然の告白だった。  二年ほど付き合っていた彼女への突然の告白だった。 「……は?」  一体目の前の女は何を言っているのだろうかと疑問に思ってしまったが、女の瞳は明らかに申し訳なさそうな顔すらしていない。  まるで自分は捨てても当然だと言う事みたいだ。  手が震えてしまい、言葉が出ない。  それでも尚、女は珈琲をすべて飲み干した後、財布からお金を取り出し千円を机の上に置く。 「ここは私が払っておくわ。おつりはいらない。その代わり、二度と私に連絡してこないで」 「……ど、どうして?」 「どうしてって、ふさわしくないのよあなた」  きっぱり、はっきりとそのように言われてしまい、女はそれ以上何も語る事がないと思ったらしく、千円を机の上に置いたまま立ち上がり喫茶店を後にしてしまった。  残された青年は何も言わず、置かれているコーヒーカップと千円札を見つめる事しか出来ない。 「……ふさわしくない、か」  その言葉が胸に響き渡り、苦しくなっていく。  ああ、自分は捨てられたのだと、大好きだった彼女に。  涙も何も出なかった。  ただ、ため息と、絶望感が青年の心を支配した。  涙が出ないまま心の中で罪悪感と戦っていた時、そっと机の上に湯気があるコーヒーが目の前に置かれる。 「……え?」 「どうぞ」 「で、でも、俺頼んで――」  目の前に現れたコーヒーを見て断ろうと顔を上げた時、そこに居たのは綺麗な笑みをしている美しい男性だった。  男でも見惚れるほど、とても綺麗な顔立ちをしており、言葉が出ないまま目の前の男を見つめるのみ。  男は笑いながら口を動かした。 「サービスです」 「で、でも……」 「新しい恋が見つかる事を祈ります」  男性はそう言うと席から離れてしまい、呆然としながらゆっくりと椅子に座る。  何が起きたのか理解出来ないまま、温かいブラックコーヒーを一口、口の中に入れた。 「……美味しい」  青年は小さくそう答えた。  失恋して数分後、絶望感を感じていた心がいつの間にか消えていたなど、その時青年は考えていなかった。
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