第01話

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第01話

「父、起きて」 「ぶわっ!」  心地よい夢の中から突然耳元で大きな声をされてしまったので急いで起きると不機嫌そうな顔をしながら布団を握りしめている子供の姿がある。  もう一度言うが、明らかに機嫌が悪く、睨みつけるような視線で自分を見ている事が分かった。 「……琉翔(りゅうと)?」 「父、朝。ほら、時間」 「…………マジか」 「寝てないの?」 「寝てなかった、悪い今飯作るわ」 「父のご飯もついでに僕が用意したから大丈夫。早く起きて汚い髭を剃って」 「……了解しました琉翔殿」  警察官のように敬礼しながらいる自分を見て納得したのか、少年はそのまま部屋を出ていき、欠伸をしながら用意しておいたシャツに腕を通した。  数年前に振られた恋人の事、そしてその後コーヒーをくれた男性の事を思い出してしまうなんて、本当に疲れていたのだろうと理解した。  あれからもう数年の月日が流れているというのにと思うと、ため息が出てしまう。  佐藤明彦(さとうあきひこ)――それが、男の名だ。  大学生三年生だった時に女に突然フラれてしまい、(女は年上だった)絶望感に浸りかけていた所、一人の男性がコーヒーを持ってきてくれた事は未だに昨日の事のように思えてしまう。  あの後あの青年が実は高校生だという事、自分より年下だという事にすら気づかずと言う失態を犯し、年下、しかも高校生に慰めてもらってしまうとは情けなさすぎた。  現在明彦はサラリーマンをしながら結婚もせず、普通の生活を送っている。  そんな彼が何故小学生の少年と一緒に暮らしており、自分を『父』と呼んでいるのか、それには深い事情がある。  ネクタイを整え、寝癖の髪の毛を軽く直していると、再度扉が開き少年、琉翔がひょこっと姿を見せる。 「父、まだか?」 「もう少し待っててくれ、悪いな」 「うん」  琉翔は再度頷き、扉を閉めた。
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