蓼喰う、喰わず。

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こいつのこういうところが嫌だった。他人の評判やクチコミを気にしてばかりいるくせに自分の好みと違えば平気で足ざまに言う。しかも蔭で。 なんで俺はこいつと結婚したんだっけ。たまに思う。いや、いつも思う。他校の女子にまでモテた学生時代ならこういうタイプは絶対選ばなかったのに。 顔も普通。スタイルも普通。特別愛嬌があるわけでもなく、性格も普通。いやどちらかといえばちょっと難ありなんだろう。同性の友達はほとんどおらず、出かける相手も長電話の相手もいつも実の妹だ。 じゃぁなぜ結婚したか。 答えは簡単だ。要は打算、いや計算だ。 俺の人生に転機が訪れたのは5年前。たいして給料は良くないけれど、大好きな地元で定年までそこそこ普通に働けるのが魅力だった職場に降って湧いた、生産ラインの閉鎖という大ピンチ。 そこからあれよあれよと180度職種の違う部署への異動が決まり、通勤時間もこれまでの3倍の見込み。どうしたらこの状況を脱せるかだけを考えていた。 そんな時に現れたのがこいつだった。男ばかりの職場にいた数少ない女。暇つぶしにからかってみたら見事に逆ロックオン。男に興味がない女だと思っていたら、どうしたら独身から抜け出せるかばかりを考えていた女だったのだ。
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