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◇
「蒼井さーん、お届けものでーす」
インターホン越しに軽快な声が届き、液晶には帽子を目深に被った宅配業者らしき人。
ネット通販を利用したこともないし、両親からの贈り物か何かかと思いながら玄関を開けると甘い香水が鼻腔をくすぐった。
仕事中に香水だなんて社会人としてどうかしている。
苛立ちを覚えながら宅配業者のお兄さんに目を遣ると、大きな段ボール箱をいくつも玄関前に積み重ねていた。
「あの、それ私宛ですか?」
「宛名はないけど住所はここなんですよ」
確かに宅配の受注書にはここの住所が記載されている。
差出人は"橘 蓮"という人らしい。
全く聞き覚えがない。
「たぶん間違いですこれ。受け取れません」
「受け取ってもらわないと困ります。ここまで運んでくるの大変だったんですから」
「いやいや、運ぶのがお兄さんの仕事ですよね?」
「サインは俺が書いておきますんで、あとは宜しくお願いしますね」
受注書の控えを雑に剥がすとお兄さんはそそくさと退散してしまった。
積み重ねられた段ボールは怪しさの塊。
こういう時は警察かな。
それともオーナーさんに声を掛けるべきかな。
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