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今日の弁当、米と海苔と梅干ししか入ってなかった。
かつてなく手抜きだけど、食費ヤバいのかな……。
そんなことを気にしていた放課後のシンタは、いつしかほわんと同級生の動きに見惚れていた。
練習熱心なのはオレも同じだと自負しているが、道場の隅で静かに、それでいてしなやかで堂々と、時には覇気をまといつつ型に打ち込むイブキは、憧れでもあった。
おまけにこの男は背も高く顔もいい。
「キレッキレの抜塞だな、イブキ」
「そうだといいな」
す、と型を終えたイブキがタオルで汗を拭きながら微笑んだとき、窓の外がざわめいた。
「また女子来てるぞ」三年のカリヤは聞こえよがしに、
「モテてモテて困るなあ、イブキ?」
「やめてください、カリヤ先輩。そんなことありません」
窓からは山みたいに連なる人の頭と、携帯電話らしき四角い影がいくつも覗いている。
「大会、シンタは組手だっけ。型は?」
「――今から練習」
「サボってたな?」
「サボるつもりはなかった。お前に見惚れてただけだ」
イブキは照れ臭そうに笑って、
「甕はもういいんじゃない。無理だけはしないで」
「おう」
握力と腕力を鍛える10キロの甕を鷲掴みにして上げ下げしていたシンタは、ごとりとそれを置いた。
「型ひと通りやるから、見ててくれ」
頷いたイブキをちらと見て、呼吸と気を整える。
――オレ渾身の壱百零八手を見せてやる。
もっと上達して、お前に一目置かれるために。
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