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「シンター!」
まぶしい笑顔、はずむ栗色の髪、揺れるむ(シンタ自主規制)。
制服のスカートをひるがえし、表彰台を下りたオレに向かってメイが駆けてくる。
「シンタ、決勝でイブキに勝ったんだって!? すごいじゃん!」
「全力尽くした結果だよ。……それと」
「それと?」
「……メイのことを想ってたからかな」
「……シンタ……」
見つめあって、絶妙の間で肩を抱き、そして……
「まだだまだだまだだまだだ」
「ワウワウワウワウワウワウワウワウワウワウ」
道端でぶんぶんと頭を振るシンタの様子があまりに不審だったのか、日頃おとなしいご近所さんの犬が吠えたてた。
高揚感を胸に戻った家は、薄暗い。
「ただいまー」
靴を脱いでいると、奥から父のヒロキがやって来た。
「シンタ」
「父ちゃんも今? おかえり」
まだシャツとスラックスを着たヒロキはさえない顔で、
「母さんが」
え、と、シンタは言葉を失った。
ぽつんと立ちつくす父。
朝、学校に出かけてから何も変わった様子もない家。
そして、テレビがついたままの居間に母の姿はなかった。
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