釣りに出かけただけなのに

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「さー、たくさん食べてくださいね」 「……すみません、急にこんな……お恥ずかしい」 恐縮しぱなしのヒロキに、シンタの命の恩人が微笑んだ。 「私たち、できる限りお手伝いしますから」 できる、限りの、お手伝い……。 白飯を頬張るシンタにも、変な妄想がふくらむ余裕が生まれてきていた。 帰宅して、夕食にありつけない──それはまぎれもなく死活問題。 空腹で意識朦朧としながら、部屋の床に伸びたシンタは、いつしか携帯電話を手にしていた。 『母ちゃんが家出したぽくって飯もない。腹減って動けない』と一縷の望みを込めた文を送ったら、 『一時間待てる?』 そう応じて救いの手を差し伸べた人間がいた。 イブキとメイだ。 「私まで上がり込んじゃってすみません。お口に合えばいいんですけど」と謙遜しているのは双子の母のユイ。頬を緩めるヒロキは「とても美味しいです」とほんのり柚子の香りがする和え物を口に運ぶ。 「シンタ、食べてる? おかわりは?」 「おう。ありがとう、メイ」 炊きたてのご飯を茶碗によそってくれるメイの姿を「いつか二人の生活を始めたら毎日朝晩この素晴らしい光景が」と考えながら目に焼き付けていると、どんと脇のテーブルに巨大なパック品が置かれた。
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