う○こしていただけなのに

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「よーでるよーでる、よーどれりっひー」 ギャグセンスは平成以前に昭和かと言われる。 今日も快眠、快食、そして朝食に味噌汁三杯と唐揚げ、白飯二合を喰らったあとのトイレ。 シンタはふう、と満足げに息をついた。 「もうちょっと、筋肉つけないとな」 洋式便器に座った格好で脚にぐっ、と力を入れ、大腿四頭筋と腓腹筋の盛り上がりを確認する。 ちなみに自分の体で一番好きな場所は上腕二頭筋、女子なら大腿二頭筋だ。次に腕を上げたときにくっと浮かんで腋へと伸びる大胸筋のライン。 なかなかフェティッシュな好みにせよ、これらを決してやましい気分で語らないのが、シンタの健全、むしろ奇特なところであった。 「母ちゃん、行ってくる」 300グラムほど軽量化してトイレから出たシンタは、玄関で洗いたての真白い靴を履きながら奥に向かって声をかけた。 テレビの音声が流れてくるが、家の中はやけにしんとしている。 「……母ちゃん?」 いつものCMソングが聞こえた。これが流れる時間はバスが近い。 ヤバいと思いながらドアを閉めるまでに、いつもの「行っといで」がなかったことが、少し気になった。
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