きっかけのおにぎり

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きっかけのおにぎり

きっかけは、ひとりの女の子だった その子は、うちの隣に住んでいて いつも夜遅くまで、お母さんを待っていた 「大丈夫、寂しくないよ」 「私はひとりでも、平気だから」 その子はいつも淡々としていてたけど どこか昔の自分に似ている気がして、とても放っておけなかった だから、階段の上に座っているその子をみかけては、あれこれ世話をやいていた 「隣、いい?」 「寒くない?」 そうしているうちにその子は、ちょっとずつ心をひらいてくれるようになった 「あ、ねえ、よかったら、これ食べる? 今日もごはん、食べてないんでしょ」 私がとりだした、とうもろこしのおにぎりをひとくち食べると、 その子は、ほろっと崩れるような顔で、笑った 「おいしい。」 あの時の顔は、今でも忘れられない あの笑顔があったから、もっと色んな人の話をききたいと思った、たくさんの笑顔をみたいと思った 私ね、疲れて、立ち止まった人こそ、甘やかしていいと思うの あの時、あの子に言った言葉を胸に、私は今日も、のれんを揺らす誰かを待っている
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