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前祝いのおにぎり
人目につかない路地裏、疲れた人にしか見つけられないと噂のお店
赤ちょうちんを横目に、きしむ入り口を開けると、暖色系の明かりに照れされた、薄暗いカウンターの奥で、ひとりの女性が微笑む
「いらっしゃいませ。」
「はあ… 疲れた~ もう ダメだ 私、」
席に着くなり、カウンターに突っ伏した私に、彼女は困ったように笑う
「なにがあったかわからないけど、とりあえず、これでもどうぞ」
「むかし、おばあちゃんが言ってたんです。赤飯は、つらいときや、泣きたいときにこそ、食べるべきだって。お祝いできるくらい、明日を、素敵な一日にするために」
こんな言葉が口癖の、彼女がつくる赤飯のおにぎりは、このお店
唯一のメニューで、
食べると、誰もが心の重荷をおろしたくなる、誰にも話すつもりのなかった
その全てを
「ただ、目を逸らすのと、前に進むために、目を逸らすのは、だいぶ違うんじゃないですか?」
彼女は、どんな傷も否定しない、そして、そっと背中を押してくれる
お店を出ると、澄んだ空に満天の星空が広がっていた
明日は晴れるかな。
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